上肩甲横靱帯 Ligamentum transversum scapulae superius

J0309 (右肩帯と靱帯:外側から少し前方からの図)

J0310 (右肩関節:前方からの図)

J0311 (右肩関節:前方からの図)

J0313 (右肩関節:後方から前面断図)

J0575 (右肩甲骨の動脈:背面図)

J0933 (右肩甲骨の神経:後方からの図)
構造と位置
上肩甲横靱帯は、肩甲切痕(incisura scapulae)の上に架かる扁平で厚みのある強靭な線維性組織です(Standring, 2020)。長さは約1.5cm、幅は5-7mm程度で、肩甲骨の上縁内側部に存在します。この靱帯は肩甲切痕を橋渡しし、上肩甲上孔(foramen suprascapulare)を形成します。
組織学的特徴
密に配列された膠原線維束からなり、肩甲切痕の縁に強固に付着しています(Moore et al., 2018)。靱帯の厚さは個人差があり、約2-4mm程度です。
特徴と変異
- この靱帯は一部または全体が骨化することがあり、特に前部が骨化しやすい傾向があります(Polguj et al., 2011)。
- 完全骨化した場合、肩甲切痕が完全な骨性の孔(肩甲上孔)となります。
- 部分的骨化、二重靱帯、複数の開口部を持つなどの変異も報告されています(Natsis et al., 2007)。
周囲の解剖学的関係
- 肩甲上動脈(suprascapular artery)がこの靱帯の上方を通過します(Tubbs et al., 2017)。
- 肩甲上神経(suprascapular nerve)がこの靱帯の下方(肩甲上孔を通過)を通り、棘上筋と棘下筋に分布します。
- 肩甲上静脈も通常この靱帯の上方を通過しますが、変異が見られることがあります(Aszmann et al., 1996)。
関連する筋肉
肩甲舌骨筋(musculus omohyoideus)の下腹の一部がこの靱帯から起始します(Standring, 2020)。この付着は肩甲骨の上内側角への牽引力として機能します。
臨床的意義
1. 肩甲上神経絞扼症候群(Suprascapular Nerve Entrapment Syndrome)
病態生理
上肩甲横靱帯の肥厚、骨化、または解剖学的変異により、肩甲上神経が肩甲上孔で圧迫されることがあります(Lafosse et al., 2007)。この絞扼により、棘上筋および棘下筋への神経伝達が障害され、筋力低下、筋萎縮、肩の痛みや機能障害を引き起こします。靱帯の骨化や肥厚は加齢、反復性の牽引負荷、外傷などにより生じることがあります(Cummins et al., 2000)。
臨床症状
- 肩の後外側部から上腕外側にかけての鈍痛や深部痛(安静時痛、夜間痛を含む)
- 棘上筋および棘下筋の筋力低下(肩関節外転および外旋の筋力低下)
- 慢性化した場合、棘上筋・棘下筋の筋萎縮が視診・触診で確認できる