


解剖学的概要
鱗乳突縫合(Sutura squamomastoidea)は、側頭骨の鱗部(Pars squamosa)と乳突部(Pars mastoidea)の間に存在する縫合線です。側頭骨は発生学的に複数の骨化中心から形成されるため、これらの部分が癒合する際に縫合線として残ります(Gray, 2020)。この縫合は側頭骨の外側面において、頭頂切痕(Incisura parietalis)から前下方に向かって走行します。
発生学的背景
側頭骨は胎生期において、鱗部、鼓室部(Pars tympanica)、錐体部(Pars petrosa)、乳突部の4つの主要な部分から別々に骨化が始まります(Standring, 2020)。出生時にはこれらの部分はまだ完全には癒合しておらず、鱗乳突縫合として識別可能な境界線が存在します。通常、生後1年から2年の間に徐々に癒合が進行しますが、成人においても痕跡として観察されることがあります(Scheuer & Black, 2000)。
解剖学的位置と関係
鱗乳突縫合は側頭骨の外側面において、以下の構造と密接な関係にあります:
臨床的意義
鱗乳突縫合は以下の臨床場面において重要な意味を持ちます:
1. 画像診断における重要性
CT画像やX線写真において、鱗乳突縫合は骨折線と誤認されることがあります(Swartz & Harnsberger, 2009)。特に小児や若年者では縫合線が明瞭に観察されるため、頭部外傷の評価時には注意が必要です。縫合線は通常、骨折線よりも滑らかで規則的な走行を示します。
2. 側頭骨骨折
側頭骨骨折は鱗乳突縫合の走行に沿って生じることがあります(Brodie & Thompson, 1997)。この領域の骨折は以下の合併症を引き起こす可能性があります: