腸恥隆起 Eminentia iliopubica
腸恥隆起は、骨盤の前部を構成する重要な解剖学的ランドマークであり、腸骨と恥骨の移行部に形成される骨性隆起です。この構造は臨床解剖学および整形外科学において重要な意義を持ちます(Drake et al., 2020; Standring, 2021)。

J0212 (右の寛骨:外側からの図)

J0213 (右の寛骨:内側からの図)

J0214 (右の寛骨:前下からの図)

J0325 (右の骨盤の靱帯:前面から少し上からの図)

J0330 (右の股関節:前方からの図)

J0489 (右側の鼡径部の筋を鼡径靱帯の直下で切断した図)
1. 詳細な解剖学的特徴
1.1 位置と構造
- 位置:腸恥隆起は骨盤の前部において、腸骨(ilium)と恥骨(pubis)が接合する境界部に位置します。具体的には、恥骨上枝(superior pubic ramus)の外側端と腸骨体(body of ilium)の下端が交わる部位に形成されます(Standring, 2021; Moore et al., 2018)。
- 形態:丸みを帯びた骨性の隆起として触知可能であり、前外側方向に突出しています。この隆起は寛骨臼(acetabulum)の前縁から連続して形成されます(Netter, 2019)。
- 骨学的構成:寛骨(hip bone)を構成する三つの骨(腸骨、恥骨、坐骨)のうち、腸骨と恥骨の骨性結合部として発生学的にも重要な構造です(Moore et al., 2018)。
- 表面解剖:体表から触診可能であり、鼠径靭帯の外側付着部のすぐ深層に位置します。腸骨前上棘(ASIS)から内下方約5-7cm、恥骨結合から外側約3-4cmの位置にあります(Palastanga and Soames, 2019)。
1.2 周囲の解剖学的関係
- 腸恥筋膜(Fascia iliopubica):腸恥隆起の表面を被覆する強靭な筋膜で、腸腰筋と骨盤内臓器を分離する重要な境界構造です(Standring, 2021)。
- 腸腰筋(Iliopsoas muscle):腸骨筋と大腰筋の合流腱が腸恥隆起の外側を通過し、小転子に向かいます。この筋腱複合体と腸恥隆起の間には腸腰包(iliopsoas bursa)が介在します(Agur and Dalley, 2017)。
- 大腿神経(Femoral nerve):腸恥隆起の外側を下行し、鼠径靭帯の深層を通過して大腿部に入ります(Moore et al., 2018)。
- 大腿動静脈:腸恥隆起の内側を通過し、血管裂孔(vascular lacuna)を形成します(Netter, 2019)。
- 恥骨櫛(Pecten pubis):腸恥隆起から内方に連続する鋭い骨性の稜で、恥骨上枝の上縁を形成します(Standring, 2021)。
2. 付着する筋肉・靭帯の詳細
2.1 靭帯付着
- 腸恥靭帯(Ligamentum iliopubicum):腸恥隆起と腸骨体の前縁を結ぶ強靭な靭帯で、恥骨上枝の骨膜と連続します。この靭帯は骨盤輪の前部安定性に重要な役割を果たします(Netter, 2019; Standring, 2021)。
- 鼠径靭帯(Inguinal ligament)の外側端:外腹斜筋腱膜が肥厚して形成される鼠径靭帯は、腸骨前上棘から始まり、腸恥隆起の近傍で恥骨結節に付着します(Moore et al., 2018)。
- 腸骨大腿靭帯(Iliofemoral ligament)の一部:股関節の最も強靭な靭帯である腸骨大腿靭帯の下部線維は、腸恥隆起の近傍から起始します(Palastanga and Soames, 2019)。