恥骨 Os pubis
恥骨は寛骨を構成する三骨(腸骨、坐骨、恥骨)の一つであり、骨盤の前下部を形成する重要な骨です。骨盤の前壁と下壁の構築に寄与し、骨盤腔を形成するとともに、多数の筋や靱帯の付着部として機能します(Gray, 2020; Standring, 2023)。

J0212 (右の寛骨:外側からの図)

J0213 (右の寛骨:内側からの図)

J0214 (右の寛骨:前下からの図)

J0277 (約8ヶ月胎児の右寛骨:外側からの図)

J0278 (10歳の女の子の右の股関節:前下方からの図)

J0329 (恥骨結合:前面切開、後部切片、前面からの図)

J0489 (右側の鼡径部の筋を鼡径靱帯の直下で切断した図)
解剖学的構造:
恥骨は以下の三つの主要部分から構成されます:
- 恥骨体(corpus ossis pubis):左右の恥骨が正中で結合する部分で、厚みのある長楕円形を呈します。前面には恥骨結節(tuberculum pubicum)という明瞭な隆起があり、これは鼡径靱帯(ligamentum inguinale)の内側端の付着部となります。また、腹直筋(musculus rectus abdominis)や錐体筋(musculus pyramidalis)の起始部でもあります(Moore et al., 2018; Netter, 2019)。恥骨体の内側面は粗面となっており、恥骨結合を形成する線維軟骨円板(discus interpubicus)が付着します(Standring, 2023)。
- 恥骨上枝(ramus superior ossis pubis):恥骨体から上外側方に伸びる部分で、寛骨臼の前下部を形成し、腸骨と坐骨に連続します。上面には恥骨稜(pecten ossis pubis、別名:恥骨櫛線 linea pectinea)と呼ばれる鋭い稜線があり、これは骨盤入口(apertura pelvis superior)の一部を形成します。この稜線は弓状線(linea arcuata)の一部として、大骨盤と小骨盤を区分する境界となります(Drake et al., 2020; Agur and Dalley, 2022)。恥骨上枝の下面には閉鎖溝(sulcus obturatorius)があり、ここを閉鎖神経(nervus obturatorius)と閉鎖血管(vasa obturatoria)が通過します(Netter, 2019)。
- 恥骨下枝(ramus inferior ossis pubis):恥骨体から下外側方に延びる扁平な骨で、坐骨枝(ramus ossis ischii)と癒合して坐骨恥骨枝(ramus ischiopubicus)を形成します。この癒合部は閉鎖孔(foramen obturatum)の内側下縁を構成します。恥骨下枝の前面は恥骨筋(musculus pectineus)、長内転筋(musculus adductor longus)、短内転筋(musculus adductor brevis)、薄筋(musculus gracilis)などの大腿内転筋群の起始部となります(Moore et al., 2018)。内側面には外閉鎖筋(musculus obturatorius externus)が付着します(Drake et al., 2020)。
重要な解剖学的構造:
- 恥骨結合(symphysis pubica):左右の恥骨体が正中線上で結合する二次軟骨結合(synchondrosis secundaria)です。線維軟骨円板(discus interpubicus)を介して結合し、円板内部には小さな裂隙(cavitas articularis)が存在することがあります。結合部は前恥骨靱帯(ligamentum pubicum anterius)と後恥骨靱帯(ligamentum pubicum posterius)によって補強されています。さらに上方には恥骨上靱帯(ligamentum pubicum superius)、下方には弓状恥骨靱帯(ligamentum arcuatum pubis)が存在し、結合の安定性を高めています(Standring, 2023; Abrahams et al., 2019)。
- 恥骨結合の可動性:通常、恥骨結合の動きは極めて限定的ですが、女性では妊娠中にリラキシン(relaxin)やプロゲステロン(progesterone)などのホルモンの影響により、靱帯が弛緩し可動性が増加します。正常妊娠では2-3mmの拡大が見られますが、分娩時には4-6mm程度まで拡大することがあります。これにより骨盤出口が拡大し、胎児の通過が容易になります(Borg-Stein and Dugan, 2007; Shnaekel et al., 2015)。
- 恥骨櫛(crista pubica):恥骨体の上縁にある隆起で、恥骨結節から恥骨稜に向かって走行します。この部分には腹直筋鞘(vagina musculi recti abdominis)の前葉が付着し、腹壁の支持構造として重要です(Standring, 2023)。
- 恥骨弓(arcus pubicus):左右の恥骨下枝が形成する角度で、骨盤出口の前部を構成します。この角度には顕著な性差があり、女性では約90-100°(鈍角)、男性では約60-70°(鋭角)を示します。この差異は産道としての機能に関連しており、女性の広い恥骨弓は分娩時の胎児通過を容易にします(Agur and Dalley, 2022; Moore et al., 2018)。
- 閉鎖孔(foramen obturatum):恥骨と坐骨に囲まれた大きな孔で、生体では閉鎖膜(membrana obturatoria)によってほぼ完全に閉鎖されます。上外側部には閉鎖管(canalis obturatorius)があり、ここを閉鎖神経と閉鎖血管が通過して大腿内側へ至ります(Netter, 2019; Drake et al., 2020)。
筋付着部:
恥骨には多数の重要な筋が付着します:
- 恥骨体および恥骨上枝の付着筋:腹直筋、錐体筋、恥骨筋、長内転筋、短内転筋の一部(Moore et al., 2018)。
- 恥骨下枝の付着筋:薄筋、長内転筋、短内転筋、大内転筋(musculus adductor magnus)の一部、外閉鎖筋、会陰の諸筋(浅会陰横筋 musculus transversus perinei superficialis、球海綿体筋 musculus bulbospongiosus など)(Standring, 2023; Netter, 2019)。
- 骨盤底筋群:肛門挙筋(musculus levator ani)の一部である恥骨直腸筋(musculus puborectalis)と恥骨尾骨筋(musculus pubococcygeus)が恥骨体の内面から起始し、骨盤底の支持に重要な役割を果たします(Drake et al., 2020)。
血管供与: