寛骨 Os coxae
寛骨は、骨盤の前方と側壁を形成する大きな扁平な不規則骨です(Gray, 2020)。出生時には腸骨、坐骨、恥骨の3つの骨から構成されており、これらが15~17歳頃に寛骨臼部で癒合して1つの骨となります(Standring, 2020)。

J0212 (右の寛骨:外側からの図)

J0213 (右の寛骨:内側からの図)

J0214 (右の寛骨:前下からの図)

J0215 (右の寛骨:筋の起こる所と着く所を示す外側からの図)

J0216 (右の寛骨:筋の起こる所と着く所を示す前外側少し下方からの図)

J0217 (右の寛骨:筋の起こる所と着く所を示す内側からの図)

J0277 (約8ヶ月胎児の右寛骨:外側からの図)

J0278 (10歳の女の子の右の股関節:前下方からの図)
解剖学的構造
全体的な形態:
- 全体として「8」の字形または砂時計状を呈します(Moore et al., 2017)
- 中央部で狭窄し、上下に扇状に拡大しています
- 厚さは部位により大きく異なり、寛骨臼周囲で最も厚く、腸骨窩では薄くなっています(Netter, 2018)
主要な構成要素:
- 腸骨(Ilium):上部の大きな翼状部分
- 腸骨翼:扇形に広がる薄い骨板で、外側面(殿筋面)と内側面(腸骨窩)を持ちます(Standring, 2020)
- 腸骨稜:上縁の厚い弓状の隆起で、前後に約30cm、触診可能な重要な体表指標です(Moore et al., 2017)
- 腸骨体:寛骨臼の上部を形成する厚い部分
- 坐骨(Ischium):後下部を構成
- 坐骨体:寛骨臼の後下部を形成
- 坐骨枝:前方に伸びて恥骨下枝と結合
- 坐骨結節:座位時に体重を支える厚い隆起(Gray, 2020)
- 坐骨棘:小さな尖った突起で、産科的計測の重要な指標です(Cunningham et al., 2018)
- 恥骨(Pubis):前下部を構成
- 恥骨体:寛骨臼の前下部を形成
- 恥骨上枝:恥骨体から内側に伸び、恥骨結合で対側と結合
- 恥骨下枝:下方に伸びて坐骨枝と結合
重要な構造物:
- 寛骨臼(Acetabulum):中央外側面の半球状の深い窩
- 大腿骨頭を収容する股関節の関節窩を形成(Standring, 2020)
- 腸骨、坐骨、恥骨の3骨が出会う部位(Y字軟骨)
- 寛骨臼窩(中央の非関節面)と月状面(関節面)から構成
- 寛骨臼切痕:下縁の切れ込みで、寛骨臼横靱帯により閉鎖
- 閉鎖孔(Foramen obturatum):前下方の大きな開口部
- 卵円形または三角形を呈し、骨盤の最大の孔です(Moore et al., 2017)
- 生体では閉鎖膜により大部分が閉鎖されます
- 上外側に閉鎖管があり、閉鎖神経と閉鎖血管が通過します(Netter, 2018)
- 男性では卵円形で大きく、女性では三角形でやや小さい傾向があります(Gray, 2020)
臨床的意義
骨折:
- 高エネルギー外傷(交通事故、高所からの転落)により発生(Tile et al., 2015)
- 寛骨臼骨折:股関節の機能に重大な影響を及ぼし、手術的治療が必要となることが多い(Judet & Letournel, 1964)
- 骨盤輪骨折:大量出血のリスクがあり、生命に関わる重症外傷(Young & Burgess, 1987)