骨間縁(尺骨の)Margo interosseus (Ulna)
尺骨の骨間縁は、尺骨体の外側縁を構成する重要な解剖学的構造です(Standring, 2020)。以下に詳細な解剖学的特徴と臨床的意義を示します:

J0177 (右の尺骨:前方からの図)

J0178 (右の尺骨:橈側からの図)

J0181 (右前腕骨の中央部断面:回外位での上方からの図)
解剖学的特徴
- 尺骨体の三縁(前縁、後縁、骨間縁)のうち、最も鋭利で明瞭な縁を形成します(Moore et al., 2017)。
- 尺骨体の外側面(橈側面)と前面の境界に位置し、尺骨体の全長にわたって走行します(Netter, 2018)。
- 橈骨の骨間縁(内側縁)と平行に対峙し、両者の間隔は前腕の近位部で約2-3cm、中央部で約3-4cmです(Palastanga & Soames, 2012)。
- 骨間縁の上端は尺骨粗面の下方に始まり、下端は尺骨頭の上方で不明瞭になります(Standring, 2020)。
付着構造
- 前腕骨間膜(membrana interossea antebrachii):両骨の骨間縁間に張る強靭な線維性結合組織で、以下の機能を持ちます(Hotchkiss & An, 1993):
- 橈骨と尺骨を連結し、前腕の安定性を提供
- 手関節から上腕骨への荷重伝達(約80%が橈骨を介し、骨間膜を通じて尺骨へ分散)(Pfaeffle et al., 1996)
- 前腕屈筋群と伸筋群の起始部を提供
- 骨間膜の線維は主に橈骨から尺骨に向かって斜め下方に走行し、前腕回内・回外運動時の力学的負荷に対応しています(Noda et al., 2009)。
臨床的意義
- 骨折の分類と治療:
- 尺骨骨幹部骨折において、骨間縁の損傷程度は骨折の安定性を左右します(Bado, 1967)
- 骨間膜損傷を伴う場合、橈尺骨間の離開や前腕の不安定性が生じ得ます(Moore et al., 2015)
- Monteggia骨折(尺骨近位部骨折+橈骨頭脱臼)やGaleazzi骨折(橈骨遠位部骨折+遠位橈尺関節脱臼)では、骨間膜の損傷評価が重要です(Ring et al., 2008)
- 前腕コンパートメント症候群:
- 骨間膜は前腕の深層筋区画と浅層筋区画を分ける重要な境界構造です(McQueen & Court-Brown, 1996)
- 外傷や過度の運動後、区画内圧上昇により虚血性壊死のリスクがあります(Sheridan & Matsen, 1976)
- 手術アプローチ:
- 前腕骨の骨折手術や腫瘍切除において、骨間縁は重要な解剖学的指標となります(Chapman et al., 2008)
- 骨間膜の温存または修復は、前腕機能の回復に不可欠です(Farr et al., 2015)
- 画像診断:
- X線写真で骨間縁の位置関係から、橈尺骨の回旋変形や離開を評価できます(Schemitsch & Richards, 1992)
- CTやMRIでは骨間膜の損傷程度を詳細に評価可能です(Soubeyrand et al., 2013)
機能解剖学
- 前腕の回内・回外運動時、橈骨は尺骨の周りを回転しますが、骨間膜はこの運動を制御し、過度の運動を制限します(McGinley & Kozin, 2001)。
- 握力発揮時、手関節から伝達される力の約20%が尺骨側に分散され、骨間膜を介して荷重が再分配されます(Palmer & Werner, 1984)。
- 骨間縁と骨間膜の複合体は、前腕の長軸方向の安定性と回旋運動の協調性の両方に寄与しています(Chloros et al., 2008)。