前面(橈骨の)Facies anterior radii
橈骨の前面(掌側面)は、橈骨の3つの面の1つであり、前腕の前方に位置する解剖学的構造です(Gray, 2021)。この面は臨床的にも重要な意義を持ちます。

J0179 (右の橈骨:母指側からの図)

J0181 (右前腕骨の中央部断面:回外位での上方からの図)

J0182 (右前腕骨の下端を上向きの位置:下方からの図)
解剖学的特徴
- 橈骨体の前面は、内側縁(骨間縁)と前縁によって境界されています(Standring, 2020)。
- 腕が解剖学的位置(手掌を前方に向けた状態)にあるとき、手掌側に最も近い橈骨の側面を形成します(Moore et al., 2018)。
- 上部では比較的狭く、下方に向かって広がる形状を呈します(Netter, 2019)。
- 表面は比較的平坦で滑らかですが、筋付着部では粗面を呈します(Drake et al., 2020)。
筋付着と機能的意義
- 長母指屈筋(Flexor pollicis longus)の起始部:橈骨前面の上部2/3から起始し、母指の屈曲運動を担います(Standring, 2020)。
- 浅指屈筋(Flexor digitorum superficialis)の橈骨頭:橈骨前面の上部から起始し、第2~5指の近位指節間関節の屈曲を担います(Moore et al., 2018)。
- 方形回内筋(Pronator quadratus):橈骨前面の下部1/4に付着し、前腕の回内運動(手掌を下に向ける動き)を担います(Gray, 2021)。
臨床的意義
- 橈骨骨折:橈骨前面は、橈骨遠位端骨折(Colles骨折、Smith骨折)や骨幹部骨折の際に重要な解剖学的指標となります。前面の整復状態は機能回復に直接影響します(Jupiter & Fernandez, 2002)。
- コンパートメント症候群:前腕の前面区画には長母指屈筋や浅指屈筋が含まれ、外傷や過度の運動により区画内圧が上昇すると、急性コンパートメント症候群を引き起こす可能性があります(McQueen & Court-Brown, 1996)。
- 手術アプローチ:橈骨前面へのアプローチは、骨折の内固定術やプレート固定術の際に用いられます。Henry法(ヘンリー法)などの前方アプローチでは、橈骨前面への到達が可能です(Henry, 1973)。
- 回内拘縮:方形回内筋の短縮や瘢痕化により、前腕の回内拘縮が生じることがあり、リハビリテーションの対象となります(Wolfe et al., 2017)。
- 画像診断:X線撮影やCT、MRIにおいて、橈骨前面の評価は骨折の転位、骨癒合の状態、軟部組織損傷の診断に重要です(Goldfarb et al., 2007)。
参考文献
- Drake, R. L., Vogl, A. W., & Mitchell, A. W. M. (2020). Gray's Anatomy for Students (4th ed.). Elsevier.——医学生向けの解剖学教科書で、橈骨の解剖学的構造と臨床的関連性について詳細に解説しています。