胸骨体 Corpus sterni

J0144 (胸骨:前面からの図)
J0145 (胸骨:右側からの図)

J0639 (頭頚部の正中矢状断:左側からの右半分の図)
概要
胸骨体(corpus sterni)は、胸骨の中央に位置する最大の部分であり、解剖学的にも臨床的にも極めて重要な構造です。胸郭の前壁を形成し、心臓、肺、大血管などの重要な胸腔内臓器を保護する役割を担っています (Gray and Carter, 2020; Standring, 2021)。
解剖学的特徴
形態と位置
- 胸骨体は胸骨柄の下方に位置し、胸骨角(angulus sterni, angle of Louis)を介して胸骨柄と結合します。下端では剣状突起(processus xiphoideus)と接続し、胸骨剣結合(synchondrosis xiphosternalis)を形成します (Standring, 2021)。
- 長さは胸骨柄の約3倍に相当し、成人では約10〜12cm、幅は上部で約4cm、下部で約3cmと、やや細くなる長方形の形状を呈します (Moore et al., 2019)。
- 前面は皮下に位置し触診可能で、わずかに凸面を呈します。正中線上にはしばしば正中胸骨線(linea mediana sterni)が観察され、これは発生学的な左右の癒合を示唆します (Drake et al., 2019)。
- 後面は心臓および心膜に面しており、平坦あるいはわずかに凹面となっています。この面には横走する線が観察されることがあり、これは胸骨分節の癒合痕を示します (Netter, 2018)。
肋骨との関節
- 胸骨体の両側縁には、第2肋骨から第7肋骨までの肋軟骨と関節する6対の肋骨切痕(incisurae costales)があります。第2肋骨の切痕は胸骨角の高さに位置し、臨床的なランドマークとして重要です (Sinnatamby, 2018)。
- 各肋骨切痕は半関節窩を形成し、対応する肋軟骨の内側端と胸肋関節(articulationes sternocostales)を形成します。これらの関節は滑膜関節であり、わずかな可動性を有します。ただし、第1肋骨と胸骨柄の関節は軟骨結合であり、可動性を持ちません (Moore et al., 2019)。
- 第3〜6肋骨の切痕は胸骨体の側縁に沿って配置され、第7肋骨の切痕は胸骨体と剣状突起の境界部に位置します (Standring, 2021)。
発生学的形成
- 胸骨体は発生学的には、4つまたは5つの胸骨分節(sternebrae)が頭尾方向に順次癒合して形成されます。この癒合は胎生期に始まり、出生後も続きます (Schoenwolf et al., 2021)。
- 成人では通常完全に融合していますが、思春期までは横方向の線(lineae transversae)が残存していることがあります。これらの線は骨化の進行とともに徐々に不明瞭になります (Moore et al., 2019)。
- まれに胸骨分節の癒合不全が生じ、胸骨裂(fissura sterni)や胸骨孔(foramen sterni)などの変異を生じることがあります。これらの変異は臨床的に重要であり、特に胸骨穿刺時には注意が必要です (Kliegman et al., 2020)。
周囲の解剖学的関係
- 胸骨体の前面は皮膚、皮下組織、大胸筋の一部で覆われています。前面は比較的表層に位置するため、外傷の影響を受けやすい構造です (Drake et al., 2019)。