


J0308 (鎖骨、胸骨、そして第1肋骨とその靱帯:前方からの図)

J0758 (右の胸腔と縦隔、肺および胸膜の除去:右側からの図)

J0759 (左の胸腔と縦隔、肺および胸膜の除去:左側からの図)

胸骨柄は、胸骨の最上部に位置する骨構造で、胸部前壁の重要な構成要素です。以下に、その解剖学的特徴と臨床的意義について詳述します(Gray and Carter, 2023; Moore et al., 2022):
胸骨柄は胸骨全長の約4分の1を占める、比較的厚みのある骨部分です(Standring, 2021)。その形状は上下方向に長い台形状を呈し、上部が広く、下部が狭くなっています。前面は粗造で筋付着部を形成し、後面は比較的平滑で胸腔に面しています(Drake et al., 2020)。
胸骨柄の上端部中央には頚切痕(jugular notch)があり、この切痕は第2-3胸椎の高さに位置し、前頚部組織との位置関係の指標となります(Netter, 2023)。頚切痕の両側には鎖骨切痕(clavicular notch)があり、それぞれ左右の鎖骨と胸鎖関節を形成します。この関節は滑膜性関節で、鎖骨の運動に重要な役割を果たします。
胸骨柄の下部では、第1肋軟骨が直接関節し、第2肋軟骨とは胸骨体との境界部(胸骨角の位置)で関節します(Agur and Dalley, 2021)。これらの肋軟骨との連結は胸郭の安定性と可動性のバランスに寄与しています。
胸骨柄と胸骨体の接合部には胸骨角(angle of Louis または sternal angle)が形成されます。この角度は約140-160度で、前方に突出した隆起として触診で確認できる重要な体表指標です(Rohen et al., 2022)。胸骨角は第2肋骨の位置を示す重要な指標となり、この基準点から他の肋骨の位置確認が可能となります。また、胸骨角は第4-5胸椎の高さに位置し、気管分岐部、大動脈弓、上大静脈の終端部、肺動脈分岐部などの重要な胸腔内構造の位置関係の指標となります。
縦隔との関係では、胸骨柄は前縦隔の前方境界を形成し、その後方には胸腺(成人では退縮)、大血管(腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈の起始部)が位置します(Paulsen and Waschke, 2021)。
胸骨柄への血液供給は主に内胸動脈(internal thoracic artery)の分枝である胸骨枝から行われます。これらの血管は骨膜を通じて骨組織に栄養を供給します。神経支配は主に肋間神経の前枝が担い、骨膜の感覚を伝達します。
胸骨柄は心臓前面の防御壁として機能し、特に右心房、上行大動脈の基部を前方から保護します(Ellis et al., 2022)。また、大動脈弓、腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈などの重要な血管を前面から保護する役割を担います。さらに、胸腺や縦隔リンパ節の前面に位置し、これらの器官を外傷から保護します(Tubbs et al., 2021)。
心肺蘇生法(CPR)では、胸骨柄と胸骨体の境界部(胸骨角)が胸骨圧迫の重要な指標となります。American Heart Association (2023)のガイドラインでは、胸骨下半部を圧迫することが推奨されており、胸骨柄の位置確認は適切な圧迫部位の決定に不可欠です。不適切な圧迫は胸骨骨折や肋骨骨折のリスクを高めるため、正確な解剖学的知識が求められます。