胸椎[T1-T12]Vertebrae thoracicae [T I-T XII]
胸椎は脊柱の胸部領域を構成する重要な部分で、解剖学的特徴と臨床的意義を持ちます(Gray, 2020; Standring, 2021):
解剖学的特徴
- 位置と構成:頚椎の下、腰椎の上に位置する12個の椎骨(T1–T12)からなり、脊柱の可動性と安定性のバランスを保ちます(Moore et al., 2018)。
- 形態学的特徴:椎体は心臓形で、側面に上・下肋骨窩(肋骨頭との関節面)を有し、椎弓は円形で比較的狭い脊柱管を形成します(Bogduk, 2012)。
- 脊柱後弯:胸椎は生理的後弯(胸椎後弯)を形成し、約20〜40度の弯曲を示します(Neumann, 2017)。
- 肋骨との関節:各胸椎は対応する肋骨と関節し、第1〜10胸椎の横突起には横突肋骨窩があり、肋骨結節と関節します(Standring, 2021)。
- 棘突起:長く、下方に斜めに傾斜しており、特にT7-T9は顕著(「屋根瓦状配列」)です(Drake et al., 2019)。
- 関節突起:上関節突起は後上方を向き、下関節突起は前下方を向く配置で、回旋運動を可能にします(Yoganandan et al., 2016)。
- 特殊な胸椎:
- T1:頚椎との移行部位で頚椎の特徴も持ち、第1肋骨と関節します(Netter, 2019)。
- T12:腰椎との移行椎で腰椎の特徴も併せ持ち、横突起が短いです(Gray, 2020)。
臨床的意義
- 脊髄損傷:胸椎部の脊髄は相対的に脊柱管が狭いため、外傷時に損傷リスクが高いです(Oyinbo, 2011)。
- 骨粗鬆症:高齢者では圧迫骨折が多発し、特にT7-T8レベルで好発します(Ensrud and Schousboe, 2018)。
- 側弯症:思春期特発性側弯症は胸椎領域に好発し、コブ角25度以上で治療介入が検討されます(Weinstein et al., 2013)。
- 強直性脊椎炎:胸椎の可動性制限と疼痛が特徴的で、進行すると竹様脊柱を呈します(Sieper and Poddubnyy, 2017)。
解剖学的変異
胸椎の数の変異:個体差が見られ、過剰胸椎(13個)の出現率は約6.9%で、男性(9.2%)の方が女性(1.4%)より高いです(Nakajima et al., 2014)。このような変異は、腰痛や神経症状の原因となることがあります。また、胸腰移行部(T11-L1)は脊柱の不安定性が高い領域として臨床的に重要です(Panjabi and White, 1990)。
参考文献
- Bogduk, N. (2012) Clinical and Radiological Anatomy of the Lumbar Spine. 5th ed. Edinburgh: Churchill Livingstone.
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2019) Gray's Anatomy for Students. 4th ed. Philadelphia: Elsevier.