椎骨 Vertebra
椎骨は、脊柱を構成する個々の骨であり、脊椎動物の体軸を形成する基本的な構成要素です(Gray, 2020)。ヒトの脊柱は通常24個の可動性椎骨(頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個)と、癒合した9〜10個の椎骨(仙椎5個、尾椎3〜5個)から構成されます。

J0116 (椎骨:頭蓋骨側からの図)
J0117 (椎骨:右方からの図)

J0137 (各種の椎骨と椎骨の破格を集めて、個々のピースの形態学的価値を示します(Quainによる))

J0150 (約8.5cm(約12週)胎児:正面からの図)
J0151 (18.5cm長(約17週)胎児:前面からの図)
J0152 (18.5cm長(約17週)胎児:背面からの図)

J0153 (新生児の環椎:上方からの図)
J0154 (新生児の軸椎:前方からの図)
J0155 (新生児の中部胸椎:上方からの図)
J0156 (新生児の第1仙椎:上方からの図)

J0157 (6ヶ月胎児の軸椎:前方からの図)

J0158 (8ヶ月胎児の仙骨と尾骨:前方からの図)
解剖学的特徴
1. 基本構造
椎骨は以下の主要な構成要素から成ります(Standring, 2021):
- 椎体(corpus vertebrae):前方に位置する短い円柱形の骨性構造で、主に軸性荷重を支える役割を担います。椎体は海綿骨で構成され、周囲を薄い緻密骨の皮質で覆われています。椎体の上下面は椎間板と接する終板(endplate)で覆われており、椎間板を介して隣接する椎骨と連結しています(Bogduk, 2018)。
- 椎弓(arcus vertebrae):椎体から後外側方に伸びる弓状の骨性構造。椎弓根(pedicle)と椎弓板(lamina)から構成されます。椎弓根は椎体後外側面から起始し、椎弓板は左右の椎弓根を後方で連結します。
- 椎孔(foramen vertebrale):椎体と椎弓で囲まれた三角形または円形の孔。椎孔が連なることで脊柱管(canalis vertebralis)を形成し、脊髄および脊髄神経根、髄膜、血管、脂肪組織を収容します(Drake et al., 2020)。
- 椎間孔(foramen intervertebrale):隣接する椎骨の椎弓根間に形成される孔で、脊髄神経根、脊髄動脈、脊髄静脈が通過します。椎間孔は前方を椎体と椎間板、上下を隣接する椎弓根、後方を関節突起間関節(椎間関節)によって境界されます(Cramer and Darby, 2017)。
2. 椎骨の突起構造
椎弓から以下の7つの突起が伸びています(Netter, 2019):
- 棘突起(processus spinosus):椎弓板の後方正中線上から後下方に伸びる単一の突起。多数の筋肉(僧帽筋、菱形筋、脊柱起立筋群、多裂筋など)および靭帯(棘上靭帯、棘間靭帯、項靭帯)の付着部となります。棘突起の形態は椎骨の部位によって大きく異なり、頚椎では短く二分し、胸椎では長く下方に傾斜し、腰椎では短く矩形を呈します。
- 横突起(processus transversus):椎弓根と椎弓板の移行部から側方に伸びる1対の突起。多数の筋肉(腸肋筋、最長筋、回旋筋、多裂筋、腰方形筋など)および靭帯(横突間靭帯)の付着部となります。頚椎の横突起には横突孔(foramen transversarium)があり、椎骨動脈と椎骨静脈が通過します。胸椎の横突起には肋骨と関節する肋骨横突関節面があります。
- 上関節突起(processus articularis superior):椎弓根と椎弓板の移行部から上方に伸びる1対の突起。上方の椎骨の下関節突起と椎間関節(facet joint)を形成します。
- 下関節突起(processus articularis inferior):椎弓板から下方に伸びる1対の突起。下方の椎骨の上関節突起と椎間関節を形成します。
椎間関節(関節突起間関節、facet joint)は滑膜性平面関節で、関節包、滑膜、関節軟骨を有します。関節面の方向は脊柱の部位によって異なり、これが各部位の運動特性を決定します(Bogduk, 2018)。
3. 椎骨の部位別特徴
- 頚椎(vertebrae cervicales):7個。最も小さく、可動性が高い椎骨です。主な特徴として:
- 横突起に横突孔があり、第1〜6頚椎では椎骨動脈と椎骨静脈が通過します(第7頚椎の横突孔は椎骨静脈のみが通過)。
- 椎体は小さく、横径が前後径より大きい楕円形を呈します。
- 棘突起は短く、第2〜6頚椎では二分しています。
- 第1頚椎(環椎、atlas)は椎体を欠き、前弓と後弓、2つの側塊から構成される環状の骨です。上関節面は後頭骨の後頭顆と環椎後頭関節を形成し、頭部の屈曲・伸展運動を可能にします(Moore et al., 2019)。
- 第2頚椎(軸椎、axis)は上方に突出する歯突起(dens)を有し、これが環椎の前弓と環椎横靭帯の間で回転軸となり、頭部の回旋運動を可能にします。
- 第7頚椎(隆椎、vertebra prominens)は特に長い棘突起を有し、体表から容易に触知できるため、椎骨レベルの指標として臨床的に重要です。
- 胸椎(vertebrae thoracicae):12個。肋骨と関節するための特殊な構造を有します:
- 椎体の側面に上下の肋骨窩(superior and inferior costal facets)があり、肋骨頭と肋椎関節を形成します。
- 横突起に横突肋骨窩(transverse costal facet)があり、肋骨結節と肋骨横突関節を形成します。
- 椎体は心臓形を呈し、頚椎より大きく、腰椎より小さい。
- 棘突起は長く、下方に傾斜しており、屋根瓦状に重なります。
- 椎孔は円形で、頚椎や腰椎より小さい。
- 関節面は冠状面に近い配列で、回旋運動を可能にします(Standring, 2021)。