大角(舌骨の) Cornu majus (Ossis hyoidei)
舌骨の大角(Greater horn of hyoid bone)は、舌骨体の外側端から後上外側方向に延びる細長い骨突起で、頸部の解剖学的構造および臨床的評価において極めて重要な役割を果たします(Gray et al., 2020; Standring, 2021)。

J0072 (舌骨:上方からの図)

J0073 (舌骨、右半分:左方からの図)

J0074 (舌骨、筋の起こる所と着く所:上方からの図)

J0075 (舌骨、右半分、筋の起こる所と着く所:左方からの図)

J0422 (口腔底の筋:口腔側からの図)

J0660 (舌筋:右側からの図)

J0661 (舌の深層筋:右側からの図)

J0680 (咽頭と喉頭の筋:後方から見た図)

J0683 (頭蓋骨の筋:後方からの図)

J0736 (喉頭とその靭帯:後方からの図)

J0738 (喉頭筋:右側からの図)

J0740 (喉頭筋:後方からの図)
解剖学的特徴
形態と寸法
- 長さ:成人において約25-35mmで、舌骨体の外側端から後上方に向かって細く延びています。個体差が大きく、人種や性別によって異なります(Kim et al., 2020; Mukhopadhyay, 2018)。
- 形状:円筒状または円錐状を呈し、基部は太く、遠位端に向かって徐々に細くなります。遠位端はやや肥厚し、結節状を呈することがあります(Standring, 2021)。
- 断面:横断面は楕円形で、内側面はやや平坦、外側面は凸面を呈します(Netter, 2018)。
- 方向:後上外側方向に延び、舌骨体との連結部から約30-45度の角度で傾斜しています(Moore et al., 2019)。
位置関係
- 垂直的位置:第3頸椎(C3)の高さに相当し、下顎角のやや下方、甲状軟骨上縁の上方に位置します(Drake et al., 2019)。
- 水平的位置:頸部の中央部から外側部にかけて位置し、頸動脈三角の深層に存在します(Moore et al., 2019)。
- 周囲構造との関係:
- 内側:咽頭側壁に近接し、中咽頭収縮筋の起始部と関連します(Saladin, 2022)。
- 外側:胸鎖乳突筋の深層に位置し、頸動脈鞘構造(総頸動脈、内頸静脈、迷走神経)が近接します(Standring, 2021)。
- 上方:茎状突起および茎突舌骨靱帯と連結します(Netter, 2018)。
- 下方:甲状軟骨上角および甲状舌骨膜と関連します(Sinnatamby, 2018)。
骨化と発達
- 骨化過程:大角の骨化中心は出生後に出現し、思春期に活発化します。通常20-25歳頃までに完全に骨化し、舌骨体と癒合します(Scheuer and Black, 2004)。
- 発達段階:
- 新生児期:軟骨性で、舌骨体とは軟骨結合により連結しています。
- 小児期:徐々に骨化が進行し、長さが増加します。
- 思春期:骨化が加速し、成人の形態に近づきます。
- 成人期:完全に骨化し、舌骨体と癒合します(O'Rahilly and Müller, 2010)。
- 加齢変化:高齢者では骨密度の低下や骨棘形成がみられることがあります(Rodriguez-Vazquez et al., 2021)。
付着構造
靭帯
- 茎突舌骨靱帯(Stylohyoid ligament):
- 付着部:大角の基部から側頭骨の茎状突起まで延びる線維性靱帯です。
- 機能:舌骨を上方および後方に固定し、嚥下時の舌骨の運動を制御します(Netter, 2018)。
- 臨床的意義:石灰化や骨化(Eagle症候群)が生じると、咽頭痛や嚥下困難を引き起こすことがあります(Standring, 2021)。