



J0682 (右側の耳管軟骨部:側面、わずかに下後方からの図)


J1023 (右耳の軟骨とその骨との接続:前面から少し外側からの図)



J1055 (右側の側頭骨を横切った断面で、上部から見た下半分の図)
鼓室部は、側頭骨を構成する4つの主要部分(鱗部、岩様部、鼓室部、茎状突起)の一つであり、外耳道の骨性部分を形成する重要な構造です(Standring, 2020)。以下に解剖学的特徴と臨床的意義を詳述します。
鼓室部は、外耳道の前下壁および下壁を形成する半管状の不規則な四角形の薄い骨板です(Moore et al., 2018)。成人では外耳道の約75%を構成し、外耳道の骨性支持構造として機能します(Standring, 2020)。この骨板の厚さは平均0.5-1.0mmで、個人差が認められます(Ishida et al., 2018)。
発生学的には、鼓室部は独立した結合組織性骨化(膜性骨化)により形成される鼓室骨(os tympanicum)として発達します(Sadler, 2019)。胎生期には馬蹄形またはC字型の骨として現れ、生後に側頭骨錐体部の下面と癒合して完全な管状構造を形成します(Komori et al., 2019; Wang et al., 2017)。この癒合プロセスは通常生後1-2年で完了しますが、個人差が存在します(Sadler, 2019)。
鼓室部の内側縁は鼓膜溝(sulcus tympanicus)を形成し、鼓膜の線維軟骨性輪(anulus fibrocartilagineus)を支持します(Netter, 2019)。この溝は鼓膜の固定に不可欠であり、鼓膜の緊張部(pars tensa)の周縁部が挿入されます(Drake et al., 2020)。
前上縁は下顎窩(mandibular fossa)の後縁を形成し、錐体鼓室裂(fissura petrotympanica)に位置します(Drake et al., 2020)。この裂隙を通じて鼓索神経(chorda tympani nerve)が側頭骨から出て、舌前2/3の味覚と顎下腺・舌下腺への副交感神経支配を担います(Standring, 2020)。また、前鼓室動脈(anterior tympanic artery)もこの裂隙を通過します(Netter, 2019)。
鼓室部の内側には、中耳腔の一部である鼓室(tympanic cavity)が位置します(Standring, 2020)。鼓室部は鼓室の前壁および下壁の一部を形成し、中耳の音響伝達機構を保護します(Moore et al., 2018)。
下端は錐体部の下面と接合し、鋭い稜線である鼓室鞘(vagina processus styloidei)を形成して、茎状突起(styloid process)の基部を取り囲みます(Drake et al., 2020)。この構造は茎状突起の安定性に寄与します(Standring, 2020)。
鼓室部への血液供給は主に浅側頭動脈(superficial temporal artery)の枝である前鼓室動脈、および顎動脈(maxillary artery)の枝から行われます(Netter, 2019)。神経支配は耳介側頭神経(auriculotemporal nerve)の枝によって提供されます(Drake et al., 2020)。
解剖学的名称として「鼓室部」という日本語名は誤解を招く可能性があります。ラテン語の「Pars tympanica」は元々「鼓膜(tympanic membrane)に関連した」という意味であり、中耳腔である鼓室(tympanic cavity)そのものではなく、鼓膜を支持する骨部分を指します(藤田, 2017)。より正確には「鼓膜部」と訳すべきかもしれませんが、慣用的に「鼓室部」が使用されています(藤田, 2017)。
外耳道への直接的外傷(例:綿棒の過度の挿入、外傷性打撲)により鼓室部骨折が生じることがあり、外耳道出血や伝音難聴の原因となります(Flint et al., 2021)。鼓室部骨折は側頭骨骨折全体の約15-20%を占め、CT画像診断が有用です(Lobo et al., 2018)。