岩様部 (側頭骨の)Pars petrosa (Ossis temporalis)
側頭骨の岩様部は解剖学的に重要な構造であり、頭蓋底の形成に寄与する緻密な骨質を持っています (Standring, 2020)。
- 外耳孔の後方にある乳様突起から頭頂切痕にかけての部分で、側頭骨の中で最も硬い部分です。この硬さが「岩(petrous)」という名称の由来となっています (Moore et al., 2018)。
- 前内方に水平に突出する四角錐状の骨塊(錐体)を含み、その内部には内耳(蝸牛、前庭、三半規管)が収められています (Drake et al., 2019)。
- 蝶形骨と後頭骨との間で後外側から前内側に向かい斜位に介在し、中頭蓋窩と後頭蓋窩の境界を形成します (Netter, 2022)。
- 解剖学的に前面、後面、下面の3面と上縁、前縁、後縁の3縁に大別され、各面・縁には特徴的な構造物が存在します (Standring, 2020):
- 前面:三叉神経節が位置する三叉神経窩があります。
- 後面:内耳道口があり、第VII・VIII脳神経が通過します。
- 下面:頸動脈管と頸静脈窩を有します。
- 臨床的に重要な構造物を内包しています (Prasad et al., 2018):
- 顔面神経管:第VII脳神経(顔面神経)が通過し、ベル麻痺などの病態と関連します。
- 内耳道:第VIII脳神経(前庭蝸牛神経)が通過し、聴覚・平衡覚障害の原因となることがあります。
- S状静脈洞溝:静脈洞血栓症の発生部位として重要です。
岩様部の骨折は側頭骨骨折の一種で、横骨折と縦骨折に分類されます。横骨折では蝸牛や前庭の損傷により感音性難聴が、縦骨折では顔面神経麻痺や伝音性難聴が生じることがあります (Ghorayeb and Yeakley, 2019)。また、岩様部の先端に位置する錐体尖は、中耳炎の合併症である錐体尖炎(Gradenigo症候群)の発生部位として臨床的に重要です (Jackler and Brackmann, 2021)。
参考文献
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2019) 『Gray's Anatomy for Students』第4版, Elsevier.
- Ghorayeb, B.Y. and Yeakley, J.W. (2019) 'Temporal Bone Fractures: Longitudinal or Oblique? The Case for Oblique Temporal Bone Fractures', The Laryngoscope, 129(2), pp. 2731-2738.
- Jackler, R.K. and Brackmann, D.E. (2021) 『Neurotology』第3版, Elsevier.
- Moore, K.L., Dalley, A.F. and Agur, A.M.R. (2018) 『臨床のための解剖学』第8版, Wolters Kluwer.
- Netter, F.H. (2022) 『ネッター解剖学アトラス』第7版, Elsevier.
- Prasad, S.C., Laus, M. and Dandinarasaiah, M. (2018) 'Surgical anatomy of the temporal bone', Otolaryngologic Clinics of North America, 51(6), pp. 1021-1042.
- Standring, S. (2020) 『Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice』第42版, Elsevier.

J0027 (側頭骨:内上方からの図)

J0028 (右の側頭骨:下方からの図)

J0032 (新生児の右側頭骨:外側からの図)
J0033 (新生児の右側頭骨:外側からの図)

J0034 (新生児の右側頭骨:内側からの図)

J0085 (内頭蓋底、アノテーション付き)

J0683 (頭蓋骨の筋:後方からの図)

J1044 (右の軟骨性耳管の軟骨部分の側方端近くの断面:内側からの図)
J1045 (右の軟骨性耳管の外側方向と内側部の3分の1の境界断面:内側からの図)
J1046 (右の軟骨性耳管の中央部と内側部の境界断面:内側からの図)
J1047 (右の軟骨性耳管の耳管の咽頭開口近くの断面:内側からの図)