トルコ鞍 Sella turcica
トルコ鞍は、蝶形骨体部の上面中央に位置する、下垂体を収容する重要な解剖学的構造です。その形態がトルコの鞍に似ていることから、この名称が付けられました(Rhoton, 2002)。

J0023 (蝶形骨:上方からの図)

J0086 (左側からの頭蓋骨の正中切断図)
J0087 (左側からの頭蓋骨の正中断図)

J0089 (右の翼口蓋窩、外側からの図)

J0095 (鼻腔の右側壁:左方からの図)

J0097 (左方からの鼻腔、骨性鼻中隔)

J0355 (頭蓋骨:後頭前頭方向からのX線像)

J0357 (頭蓋骨:右左方向からのX線像、軸線は右の外耳道の少し上から入ります)
解剖学的特徴
位置と形態
- 蝶形骨体部の上面中央に位置する、深いくぼみ状の構造で、下垂体窩(hypophyseal fossa)とも呼ばれます(Gray and Williams, 2015)。
- 前後径約10-16mm、横径約10-14mm、深さ約8-10mmの楕円形の窪みを形成します。
- 底部は蝶形骨洞の天井を形成し、骨は薄く、わずか0.5-1mm程度の厚さしかありません。
境界構造
- 前方は、鞍結節(tuberculum sellae)により境界されています。
- 鞍結節の両側には前床突起(anterior clinoid process)が突出しています。
- 前床突起は、視神経管の後外側縁を形成します。
- 後方は、後床突起(dorsum sellae)という垂直な骨板により境界されています。
- 後床突起の上縁両側には、後床突起(posterior clinoid process)が突出しています。
- 後床突起は、海綿静脈洞の後壁を形成します。
- 側方は、海綿静脈洞(cavernous sinus)に接しています。
- 海綿静脈洞の外側壁には、動眼神経(CN III)、滑車神経(CN IV)、三叉神経第1枝(CN V1)、三叉神経第2枝(CN V2)が走行します。
- 海綿静脈洞内には、内頸動脈とその分枝が走行します。
- 上方は、横隔膜トルコ鞍(diaphragma sellae)という硬膜の折り返しにより覆われています(Netter, 2018)。
- 横隔膜トルコ鞍の中央には、下垂体茎が通過する小孔があります。
- この硬膜構造は、下垂体を部分的に覆い、くも膜下腔と下垂体を隔てています。
内容物と周囲の構造
下垂体(脳下垂体)Hypophysis; Pituitary gland
- トルコ鞍内には下垂体が収容されており、重量は約0.5-0.9gです(Standring, 2020)。
- 下垂体は、発生学的起源が異なる2つの部分から構成されます。
- 前葉(腺性下垂体、adenohypophysis):口腔外胚葉由来のラトケ嚢から発生します(Melmed et al., 2016)。
- 遠位部(pars distalis):前葉の大部分を占め、成長ホルモン(GH)、プロラクチン(PRL)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)を分泌します。
- 中間部(pars intermedia):前葉と後葉の間に位置し、メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)を分泌します。
- 隆起部(pars tuberalis):下垂体茎を取り囲む薄い層です。
- 後葉(神経性下垂体、neurohypophysis):間脳の視床下部から発生する神経組織です(Standring, 2020)。
- 視床下部の室傍核と視索上核で産生されたオキシトシンとバソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH)を貯蔵・放出します。
- 下垂体茎(infundibulum)を介して視床下部と連続しています。
- 下垂体は、視床下部-下垂体門脈系を介して視床下部からの調節を受けます(Melmed et al., 2016)。
- 上下垂体動脈が視床下部正中隆起で毛細血管網を形成し、放出ホルモンや抑制ホルモンを受け取ります。
- 門脈血管を通じて前葉に運ばれ、ホルモン分泌を調節します。
周囲の重要構造
- 視交叉(optic chiasm):トルコ鞍の前上方、約5-10mm上方に位置します(Rhoton, 2002)。
- 左右の視神経が交叉し、鼻側網膜からの線維が対側に交叉します。
- 下垂体腫瘍が上方に伸展すると、視交叉を圧迫し、両耳側半盲を引き起こします(Molitch, 2017)。