足底 Planta (Sole)
足底は、解剖学的に重要かつ独特な特徴を持つ足の部位であり、以下の詳細な構造と機能を有します(Gray and Lewis, 2020; Standring, 2021):

J0019 (右の踵骨:外側からの矢状断図)

J0392 (人体の部位:背面図)

J0967 (右足底の皮神経、下方からの図)

J0968 (右足底の深部神経、下方からの図)
解剖学的特徴
- 足根部の関節(距骨下関節、横足根関節)より前方部の足の下面全体を指し、踵から趾(足指)の付け根までの領域を含みます(Moore et al., 2018)。
- 皮膚学的に特殊な構造を持ち、無毛で通常メラニン色素に乏しく、角質層が著しく肥厚しています(Burkitt et al., 2017)。
- 真皮と皮下組織に発達した脂肪体(踵脂肪体、中足骨頭下脂肪体)があり、衝撃吸収の役割を果たします(Netter, 2019)。
- 体重負荷部位(踵部、中足骨頭下、母趾球部)には特徴的な皮膚隆線(皮膚紋理)が発達し、摩擦力を高め、足底の安定性を向上させています(Agur and Dalley, 2022)。
- 足底腱膜(足底筋膜)が長軸方向に走行し、踵骨から足趾基部まで伸びて「縦アーチ」の維持に重要な役割を果たします(Sinnatamby, 2023)。
神経支配と血管
- 脛骨神経の分枝である内側足底神経と外側足底神経が主な感覚支配を担当し、深部では筋肉への運動支配も行っています(Drake et al., 2020)。
- 後脛骨動脈から分枝する内側・外側足底動脈が主な血液供給源となります(Hansen, 2018)。
臨床的意義
- 足底筋膜炎:過度の使用、不適切な靴の着用、または肥満により足底腱膜付着部に炎症が生じる一般的な疾患です(Lemont et al., 2019)。
- 足底腱膜拘縮(デュプイトラン拘縮類似):足底筋膜の線維性増殖により足趾の屈曲拘縮を引き起こすことがあります(Schünke et al., 2020)。
- 糖尿病性足病変:神経障害と血流障害により足底の潰瘍形成リスクが高まります。特に感覚低下により無自覚の外傷が悪化することがあります(Boulton, 2018)。
- 足底反射:脊髄反射の一種で、足底外側から内側へ刺激を与えると、正常成人では足趾の底屈が見られますが、錐体路障害では母趾の背屈(バビンスキー反射)が誘発されます(Kumar and Clark, 2021)。
参考文献
- Agur, A.M.R. and Dalley, A.F. (2022) Grant's Atlas of Anatomy, 15th Edition. — 臨床応用を重視した詳細な解剖学的図版と解説を提供する定評ある解剖学アトラス。
- Boulton, A.J.M. (2018) 'The diabetic foot: Grand overview, epidemiology and pathogenesis', Diabetes/Metabolism Research and Reviews, 34(1), pp. e3002. — 糖尿病足病変の包括的な病態生理学的解説を提供する総説論文。