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胃は広い腔所を持つ貯蔵器官で、充満時には洋梨の形状を呈する。ここに口から入った食物が集められ、かなりの時間留まる。
口腔内ですでに食物への化学的作用が始まるが、胃内では胃液Succus gastricus, Magensaftの作用により食物が廉汁Chymus, Speisebreiに変化する。胃の筋層の働きにより、胃液と食物塊がよく混和される。この筋肉運動によって、胃内容物が胃液を分泌する壁に繰り返し接触するのである。
胃の形と大きさには個人差が著しい。平均長は中等度充満時で25~30cm、最大横径は12~14cm、容量は約2.5リットルである。(日本人の胃容量平均は、中等度充満時で男性1.41リットル、女性1.28リットル、極度充満時で男性2.42リットル、女性2.08リットルである[菅井竹吉、東京医学会雑誌18巻181~199, 368~377.1904]。また、硬化処理した胃の平均長は、男性で大弯39.3cm、小弯13.1cm、女性で大弯32.4cm、小弯14.6cmである[岡本規矩雄、慶応医学2巻355-450.1922]。)平均重量は30gである。長期絶食後など胃が収縮時は、壁が互いに近づき円柱状の管となる。収縮状態を除いても、短くて幅広の胃形と長くて幅狭の胃形がある。食事習慣が形状に大きく影響すると考えられる。空虚で非収縮時は平坦な嚢状で、両壁が接触している。内容物が増えると、胃は主に下方に拡張し、左前方への拡張は僅かである(Leßhaft)。レントゲン検査で示されるように、鈎状を呈する(Hasselwander, Ergeb. Anat. Entw., 23. Bd., 1921参照)。
性差と年齢差:レントゲン検査により、胃の形・位置・長さに男女差が顕著であることが分かる。女性の胃は比較的長く、より急峻な角度を示す。乳児の胃は鈎状ではなく細長い形状で、より水平に位置する。新生児の胃は極めて小さく、空気で中等度に充満させた際の最大長は5cm、最大横径は3cm、容量は22~30ccである。
胃には前壁Parles ventrocranialisと後壁Parles dorsocaudalisが区別される。また小弯Curvatura ventriculi minor, kleine Kurvaturと大弯Curvatura Ventriculi major, große Kurvaturがある。胃と食道の接続部を噴門Cardiaといい、腸との境界には輪状のくびれがあり、その内部に括約筋と粘膜ひだが発達している。これを幽門Pylorus という。噴門の左上方に突出し円く膨らんだ部分が胃の最広部で、胃底Fundus ventriculiと呼ばれる。幽門に近い部分は幽門部Pars pyloricaで、しばしば幽門の左方にある浅いくびれでその境界が示される。胃底と幽門部の間の部分が胃体Corpus ventriculi, Magenkörperである(図093(胃粘膜のひだ)、図099(胸部と腹部の内臓の位置)、図113(腺腹))。
局所解剖:胃の軸Magenachseは左上方から右下方へ急角度で走行する。
I. 全身に対する位置holotopisch(Waldeyerは全身に対する各器官の位置をHolotopie、骨格との位置関係をSkeletotopie、近接器官との関係をSyntopie、器官内部の相互位置関係をIdiotopieと呼称した[原著註])として、胃は上腹部Regio abdominis cranialisに属し、その3/4が上腹部左外側部、1/4が上腹部内側部に位置する(RK149(**人体の諸部分:**前面))。
II. 骨格との位置関係skeletotopischとして、噴門は第11胸椎の高さで、第6・7肋骨間の胸骨左縁に相当する。
幽門は多くの場合、第12胸椎の右に位置する。剣状突起の左側縁と下端が小弯の位置に相当する。胃の右端は肝臓に覆われているが、その前方を右の肋骨弓の第8肋軟骨部分が下行する。左の肋骨弓は胃を斜めに横切り、大きさの異なる2つの部分に分けている。胃底は左の第5肋軟骨の高さまで上方に突出している。
III. 他の諸器官との関係(syntopisch):胃は多くの腹部器官と重要な位置関係を持つため、胃の表面には多数の接触面(Berührungsfelder)が区別されている。しかし、これらの広がりは変化に富み、同一人物でも身体や器官の状態によって変化することを認識しておく必要がある(F. W. Müller, 1923参照)。
小弯は肝臓の左葉に覆われ、大弯は横行結腸に接している。胃の前壁は、右側では肝臓の方形葉と左葉により、左側では横隔膜の肋骨部と前腹壁によって覆われている。胃の後壁は横隔膜の腰椎部と膵臓に接する。胃底は横隔膜頂の左部分にあり、その後部は左の腎臓、副腎、および脾臓に接している。
したがって、接触面として次のものがある:肝臓面(Facies hepatica)、自由面(あるいは腹壁面、F. libera s. epigastrica)、横隔面(F. phrenica)、膵臓面(F. pancreatica)、結腸結腸間膜面(F. colomesocolica)、腎臓面(F. renalis)、副腎面(F. suprarenalis)、脾臓面(F. lienalis)(図097(胃の接触面:前面)、098(胃の接触面:後面))。肋骨下角にある自由面と肝臓面が、前腹壁のいわゆる胃窩(Magengrube)に相当する。
生体における胃の位置関係は、体位や呼吸運動によって著しく変化する。Hasselwanderのレントゲン検査によると、例えば仰臥位で呼気時、幽門とそれに続く十二指腸部分は第12胸椎に相当する位置にあるが、直立位で吸気時には第3腰椎に相当する。つまり、2椎体分の高さにわたって移動しうることが証明されている。
臥位と立位では胃の位置が大きく異なる。直立位では大弯が左下方に、小弯が右上方に向き、前面が前方に、後面が後方に向く。一方、横臥位では大弯が前方に、小弯が後方に向き、いわゆる前壁が上方に、後壁が下方に向く(Fr. W. Müller, Klinische Wochenschrift, 2. Jhrg. 1923)。このことから、レントゲン撮影時の胃の影像が多様であることが理解できる。すなわち、直立位ではサイホン形(Siphonform)(図101(**胃のレントゲン像:**直立位)、102(**胃のレントゲン像:**仰臥位))、仰臥位では牛角形(Stierhornform)(図101(**胃のレントゲン像:**直立位)、102(**胃のレントゲン像:**仰臥位))を呈する。
[図91] ヒトの胃底腺の横断面
[図92] ヒトの幽門腺の横断面
[図93]胃粘膜のひだ:この胃は完全に空虚だが、極度に収縮しているわけではない。
[図94]胃粘膜(幽門部)の一部:内面から見た図。倍率5倍。
[図95]胃粘膜の表面:倍率18倍。
[図96]胃のレントゲン像:背腹方向に撮影。少量の造影剤を使用。粘膜の像は正常。(W. Knothe撮影)
図97は前面、図98は後面を示す。
[図99]胸部と腹部の内臓の位置:胸部と腹部の前壁および一部の内臓を取り除いた状態。
[図100]腹部内臓の位置関係I
前腹壁を取り除いた状態での腹部内臓の自然な配置を示す全景。
[図101、102]胃のレントゲン像(Groedelによる)
図101は直立位、図102は仰臥位で撮影。