

J0811 (妊娠中の右乳房の水平断、上半分:下方からの図)



J1083 (足底の皮膚の血管の分布は、階段状に作られたモデルで示されています)
皮下組織の脂肪層は、皮膚の真皮直下に位置する脂肪細胞の集合体です。解剖学的には白色脂肪細胞(white adipocytes)と少量の褐色脂肪細胞(brown adipocytes)から構成され、これらは疎性結合組織の中に小葉状(lobular arrangement)に配列しています(Ross and Pawlina, 2020; Standring, 2020)。白色脂肪細胞は単房性の大きな脂肪滴を含み、主にエネルギー貯蔵に関与する一方、褐色脂肪細胞は多房性の脂肪滴とミトコンドリアを豊富に含み、熱産生に特化しています(Cannon and Nedergaard, 2004)。
この層の厚さは部位により著しく異なり、腹部や臀部では厚く(平均20-30mm)、眼瞼や陰嚢ではほとんど存在しません(Gray's Anatomy, 2020)。Avram et al. (2007) によれば、性差も顕著に存在し、女性では脂肪層の分布パターンが男性と異なり、臀部・大腿部・乳房により多く分布することが示されています。また、皮下脂肪組織は浅層と深層に分けられ、両者の間には浅筋膜(superficial fascia)が介在します(Lancerotto et al., 2011)。血管供給は真皮下血管叢(subdermal plexus)から分枝する小動脈によって行われ、静脈は皮静脈系を形成します(Hallock, 2018)。
機能的には、体を断熱し体温を調節する重要な役割を担い、寒冷環境では血流を制限して熱損失を最小限に抑えます(Cannon and Nedergaard, 2004)。褐色脂肪組織は非震え熱産生(non-shivering thermogenesis)を担い、uncoupling protein 1 (UCP1)を介してミトコンドリア内でATP合成を解離し、熱を産生します(Nedergaard et al., 2007)。
また、エネルギー蓄積の主要な場であるとともに、機械的衝撃から内部組織を保護し、皮膚の可動性を維持します(Sbarbati et al., 2010)。Wu et al. (2011) の研究では、皮下脂肪組織が免疫系にも積極的に関与していることが明らかになっており、マクロファージや好酸球などの免疫細胞が常在し、炎症応答や組織修復に寄与しています。さらに、皮下脂肪組織は内分泌器官としても機能し、レプチン、アディポネクチン、レジスチンなどのアディポカインを分泌し、全身のエネルギー代謝や炎症状態を調節します(Trayhurn and Wood, 2004)。
臨床的には、この層は皮下注射や皮下点滴の投与部位として重要であり、インスリンやヘパリンなどの薬剤投与に利用されます(Cocoman and Murray, 2008)。肥満ではこの層が著明に肥厚し、メタボリックシンドロームや2型糖尿病のリスク因子となります(Trayhurn, 2013)。特に内臓脂肪と異なり、皮下脂肪の増加は比較的代謝リスクが低いとされていますが、過剰な蓄積は関節負荷や睡眠時無呼吸症候群などの原因となります(Ibrahim, 2010)。
外科的には皮弁形成(flap surgery)の際に重要で、血管が豊富なため創傷治癒に寄与します(Hallock, 2018)。皮下脂肪組織を含む皮弁は栄養血管を確保することで生着率が向上します。さらに、褥瘡(pressure ulcers)やリポディストロフィー(lipodystrophy)、脂肪萎縮症(lipoatrophy)などの病態とも密接に関連しています(Garg, 2011)。Choe et al. (2016) によると、加齢に伴う皮下脂肪の減少(subcutaneous fat atrophy)は、皮膚の脆弱性増加の一因となり、外傷や創傷治癒遅延のリスクを高めることが指摘されています。また、脂肪組織の線維化(fibrosis)はセルライトの形成にも関与します(Hexsel et al., 2009)。