下直筋 Musculus rectus inferior

J0640 (頭部の前頭断、後方からの図)

J0908 (右眼窩と右上顎神経:右側からの図)

J1000 (右眼窩の内容物:前方からの図)

J1001 (右眼窩の内容物:右方からの図)

J1002 (右眼窩の後部:前上方からの図)

J1003 (右の眼窩の筋の起源:前方からの図)

J1004 (右眼の筋の接続部:前面からの図)

J1005 (右眼球の筋の付け根、上から、内側から、下から、そして外側からの図)

J1007 (右眼窩を視神経孔の近くの断面:前方からの図)

J1008 (右眼窩の視神経孔と眼球の中間の断面:前方からの図)

J1009 (右眼窩の眼球のすぐ後ろの切断:前方からの図)

J1010 (眼球の矢状断:若干の模式図)
下直筋は、外眼筋の一つであり、眼球運動に重要な役割を果たす横紋筋です(Remington, 2021)。眼窩内において、下直筋は眼球の下転運動を主に担当し、視線の垂直方向への移動に不可欠な構造です(Standring, 2023)。以下に、その解剖学的特徴と臨床的意義について詳しく説明します。
解剖学的特徴
- 起始:下直筋は共通腱輪(Zinn輪、annulus of Zinn)の下部から起こります(Standring, 2023)。この共通腱輪は視神経孔と上眼窩裂を取り囲む線維性の輪状構造であり、4つの直筋すべての起始部となります(Drake et al., 2024)。
- 走行:眼窩底に沿って前方へ走行し、眼球赤道部の下方を通過します(Remington, 2021)。走行中、下直筋は眼窩下壁の骨膜と緩く結合し、眼窩脂肪組織に囲まれています(Dutton, 2023)。筋の長さは約40mmで、腱の長さは約5.5mmです(Wong, 2022)。
- 停止:角膜輪部(limbus)から約6.5mm後方の強膜に、幅約10mmで放射状に停止します(Drake et al., 2024)。この停止部は4つの直筋の中で最も角膜から遠位にあります(Standring, 2023)。停止腱は強膜の表層に強固に結合し、眼球運動時の力の伝達を可能にします(Miller et al., 2023)。
- 支配神経:動眼神経(CN III、oculomotor nerve)の下枝により支配されます(Kanski & Bowling, 2024)。動眼神経核の腹側亜核から起こる神経線維が、上眼窩裂を通過して眼窩内に入り、下直筋の後部中央から筋内に侵入します(Miller et al., 2023)。神経支配の障害は、下直筋麻痺を引き起こします(Wong, 2022)。
- 血液供給:眼動脈(ophthalmic artery)の筋枝により栄養されます(Standring, 2023)。特に下筋動脈(inferior muscular artery)が主要な血液供給源となり、筋の中央部で筋内に侵入します(Dutton, 2023)。また、前毛様体動脈も筋の前部への血液供給に関与します(Drake et al., 2024)。
- 解剖学的関係:下直筋の下面は眼窩下壁の骨膜と結合し、その間に眼窩脂肪が介在します(Remington, 2021)。また、下直筋と外直筋の間には下眼瞼牽引筋(lower eyelid retractors)が付着し、眼球運動と眼瞼運動の協調に寄与します(Dutton, 2023)。
機能と作用
- 主要作用:眼球の下転(depression)を担います(Wong, 2022)。正面視(primary position)において、下直筋の収縮は眼球を下方へ回転させ、視線を下向きにします。この作用は、階段を降りる際や読書時など、日常生活で頻繁に使用されます(Miller et al., 2023)。
- 副次作用:眼球の内転(adduction)と外旋(extorsion)を伴います(Remington, 2021)。下直筋の解剖学的軸は視軸に対して約23度の角度をなしているため、収縮時にこれらの副次的な運動が生じます(Standring, 2023)。
- 眼位依存性:Listing's法則に従い、眼球が内転位にあるときには下転作用が増強され、外転位では減弱します(Miller et al., 2023)。これは、内転位では下直筋の作用軸が視軸により近づくためです(Wong, 2022)。
- 協調運動:両眼の垂直方向への運動において、下直筋は反対側の上直筋と協調して働きます(Kanski & Bowling, 2024)。この協調運動は、両眼視と立体視の維持に重要です(Remington, 2021)。
臨床的意義
下直筋の機能障害は、以下の症状を引き起こす可能性があります(Kanski & Bowling, 2024):
- 麻痺:動眼神経麻痺や眼窩外傷により下直筋麻痺が生じると、上方視の制限と複視(特に下方視および内転時に顕著)が生じます(Miller et al., 2023)。患者は代償性に頭位を傾け、患側の顎を挙上させることがあります(Wong, 2022)。
- 拘縮:甲状腺眼症(thyroid eye disease)では、下直筋が最も頻繁に肥大・線維化する筋であり、筋の拘縮により上方視が制限されます(Dutton, 2023)。この状態では、眼球を上方に動かそうとすると抵抗を感じ、複視が生じます(Kanski & Bowling, 2024)。炎症期には眼窩MRIで筋の肥大が確認されます(Miller et al., 2023)。
- 眼窩底骨折:眼窩底骨折(orbital floor fracture)では、下直筋が骨折部位に嵌頓することがあり、眼球運動の機械的制限を引き起こします(Wong, 2022)。強制牽引試験(forced duction test)により、機械的制限と麻痺性制限を鑑別できます(Kanski & Bowling, 2024)。