胸神経節とは、胸部交感神経幹における幹神経節10~12個の総称名です。すべての胸神経節には白交通枝と灰白交通枝があります。前者は胸髄からの交感神経節前線維を通過させ、後者は各胸神経節から発する節後線維を脊髄神経系に送り出す道を形成します。灰白交通枝に入らない節後線維群は、胸神経節から直接内臓に向かう神経束を形成します。このような神経束には、第1~4胸神経節から出る心臓に向かう胸心臓神経、第5~9胸神経節から出る腹部内臓に向かう大内臓神経、第10~12胸神経節から出る小内臓神経などが含まれます。大および小内臓神経内には交感神経節前線維も含まれており、これらの神経は大内臓神経内部に存在する小さな内臓神経神経節またはより末梢側で腹部の動脈周囲神経節においてニューロンを交換して節後線維となります。胸神経節および白・灰白交通枝は、内臓知覚(とくに痛覚)を脊髄に向かって伝える求心性神経線維の通路としても重要です。交感神経幹には、各肋骨にほぼ相当して小さな膨らみがあります。これが胸神経節です。胸神経節の数は左右とも通常10~12個ですが、第1胸神経節は頚部の神経節と癒合して頚胸神経節(別名星状神経節stellate ganglion)を作ることが多いです。胸神経節は、様々な不随意の身体機能を制御する信号を伝える役割を担っています。
日本人のからだ(木田雅彦 2000)によると
(1)胸・腰・骨盤部交感神経幹神経節
胸部、腰部、骨盤部の交感神経幹神経節は、一般的に神経節の数が椎骨数に近いため、頚部の幹神経節と異なり、さまざまな番号の付け方が考えられてきました。そのなかでも、灰白交通枝が交通する脊髄神経に基づく番号付けは、現在もっとも便利で無理がないようです。これは、灰白交通枝が原則としてすべての分節の神経節に存在するからです。このことを詳細に検討した吉田(1980)の研究を紹介し、統計資料を引用します。
ある高さの脊髄神経との交通枝において、有髄(または無髄)線維全部が同一の神経節に交通する場合は、不分岐白(灰白)交通枝と呼び、複数の神経節に交通する場合は分岐白(灰白)交通枝と呼びます。線維解析によって調査した胸腰部の分岐・不分岐交通枝の頻度を表100に示します。
幹神経節は完全神経節と分離神経節に分けられ、両者によって構成される複合神経節も存在します。完全神経節は分裂や隣接神経節との融合のない基本型で、不分岐の灰白および白交通枝を各1本か、または不分岐灰白交通枝1本のみを有しています。これを4型に分けて、A-C型を完全標準神経節、D型を完全境界神経節と呼びます。単独では完全神経節の形態を示さないが、隣接する同様の神経節を一括すると完全神経節に相当する場合、これを分離神経節と呼びます。a-c型を分離標準神経節、d型を分離境界神経節と呼びます。分離神経節の各構成神経節を、小神経節と呼びます。複数の完全神経節および小神経節が融合したと考えられる神経節を複合神経節と呼びます。各種神経節の出現数を表101, 102に示します。ただし、実際には肉眼的に神経節が存在しない場合でも、交感神経幹と交通枝との交点を理論上の神経節として統計処理しています。
木田・工藤(1997)の調査による胸部・腰部・骨盤部の幹神経節数を表103に示します(所属分節は交通枝によって判定しました)。神経節数は平均で胸神経節が11.0個、腰神経節が3.2個、仙骨神経節が3.8個です。松島茂(1929 b)によれば、腰神経節は3.8個(46側中)、仙骨神経節は4.4個(50側中)です。両者の差異には、標本数や地域の差より、観察者間の神経節に対する判定の差がもっとも影響していると思われます。また松島茂(1929 a)によると、腹腔内最上位神経節は第12胸神経節の場合が78.2%であり、第1腰神経節の場合が21.7%です。骨盤腔内最上位神経節は、独立の第5腰神経節の場合が54%であり、独立の第1仙骨神経節の場合が20%です。
なお、胸部交感神経節については、Atumi (1944 a,b)の報告も参照してください。
表100 胸腰部における分岐・不分岐交通枝の出現数
交通する脊髄神経の分節 | Th1 | Th2 | Th3 | Th4 | Th5 | Th6 | Th7 | Th8 | Th9 | Th10 | Th11 | Th12 | L1 | L2 | L3 | L4 | L5 | 計(%) |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
不分岐白交通枝 | 93 | 83 | 86 | 81 | 90 | 86 | 92 | 89 | 90 | 88 | 91 | 90 | 88 | 45 | 5 | 0 | 0 | 1197 (94.3) |
分岐白交通枝 | 1 | 11 | 8 | 13 | 4 | 8 | 2 | 5 | 4 | 6 | 3 | 4 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 72 (5.7) |
白交通枝総数 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 91 | 45 | 5 | 0 | 0 | 1269 (100.0) |
白交通枝欠損数 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 49 | 89 | 94 | 94 | 329 |
不分岐灰白交通枝数 | 93 | 87 | 87 | 87 | 88 | 86 | 85 | 90 | 88 | 83 | 84 | 85 | 93 | 93 | 93 | 94 | 93 | 1509 (94.5) |
分岐灰白交通枝数 | 1 | 7 | 7 | 7 | 6 | 8 | 9 | 4 | 6 | 11 | 10 | 8 | 1 | 1 | 1 | 0 | 1 | 88 (5.5) |
灰白交通枝数 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 93 | 94 | 94 | 94 | 94 | 94 | 1597 (100.0) |
灰白交通枝欠損数 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
(吉田, 1980)
表101 幹神経節諸型の出現数(52体94側中)