内側上腕皮神経

内側上腕皮神経は第8頚神経および第1胸神経からの腕神経叢の内側神経束から発生し、上腕の内側の皮膚に分布する知覚神経です。この神経は第2肋間神経または第3肋間神経の外側皮枝と交通し、肋間上腕神経を形成します。これらの神経は合体して1本になることもあれば、それぞれ独立して発生することもあります。肋間上腕神経がよく発達している場合、内側上腕皮神経は小さくなることもあります。

日本人のからだ(千葉正司 2000)によると

内側上腕皮神経は、腕神経叢の内側神経束や下神経幹の後面、下神経幹後枝から通常1本で起こり、腋窩静脈の深層を通過します。そして上腕内側から後面に回り、上腕後面から肘頭までの皮膚に分布します(Hirasawa, 1931; 川崎,1940 a; 河西・千葉,1980; Kasai et al., 1982)。この神経と肢鴛静脈との関係は、3型に分けられます(図71) (河西・千葉,1980)。しばしば肘頭を超えて前腕近位後面まで分布します(77%,内藤,1934 a,b)。起始が細い数枝に分かれる場合もあります。

内側上腕皮神経の分節構成は、C8とTh1の2根またはTh1のみとされています(川崎,1940 a;河西・千葉,1980)。特に、第1肋間神経の外側皮枝が出現すると、内側上腕皮神経の起始はすべてC8とTh1の両根となり、その起始がやや頭側に移動します(図72) (河西・千葉,1980)。

内側上腕皮神経は、腕神経叢の背側層に所属し、肋間上腕神経の後枝としばしば吻合します(図73) (84%,河西・山本,1966; 88%,相山,1972)。また、橈骨神経の後上腕皮神経とも吻合することがあります(8%,河西・山本,1966; 11%,河西ら,1989)。肋間上腕神経後枝と後上腕皮神経が発達すると、内側上腕皮神経が欠如することもあるとされています(佐藤進, 1971; 相山,1972)。内側上腕皮神経は、時には後神経束(あるいは橈骨神経)とも吻合します(5.6%,川崎,1940 a; 40%,相澤ら,1994)。そのさいには、内側上腕皮神経からの線維は主に橈骨神経の本幹に入り、後上腕皮神経には参加しないとされています(河西ら,1989; 相澤ら,1994)。

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図71 腋窩静脈と内側上腕皮神経の位置的関係(右前面)(河西・千葉, 1980)

図71 腋窩静脈と内側上腕皮神経の位置的関係(右前面)

( )には、35例中の出現頻度を示します。腋窩静脈(Av)は通常、内側前腕皮神経(Cam)の背側で内側上腕皮神経(Cbm)の腹側を下行します(A型)。腋窩静脈が、Cbmの背側を通ることもあります(B型)。さらに、腋窩静脈が2枝に分かれて、その間にCbmを挟む場合もあります(C型)。

M: 正中神経、Mc: 筋皮神経、U: 尺骨神経、C5-Th1: 第5頚神経-第1胸神経の前枝

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図72 第1肋間神経外側皮枝の出現と代償関係(右前面)(河西・千葉, 1980)

図72 第1肋間神経外側皮枝の出現と代償関係(右前面)

( )は、第1肋間神経外側皮枝(Rcl-1)の存在した37例の出現頻度を示します。D型では、Rcl-1と内側上腕皮神経(Cbm)を結ぶ2本の交通枝が存在します。一方、C型では、Cbmが貧弱に出現します。A型とB型ではCbmは欠けていますが、B型では内側神経束からRcl-1へ向かう交通枝が存在します。図では内側前腕皮神経は省略されています。

Icb: 肋間上腕神経、M: 正中神経、Mc: 筋皮神経、U: 尺骨神経