延髄 Myelencephalon

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J0829 (10.4mm頂殿長の人間の胎児の脳、右半分:左方からの図)

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J0830 (13.8mm頂殿長の人間の胎児の脳、右半分:左方からの図)

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J0831 (46.5mm頂殿長の人間の胎児の脳、右半分:左方からの図)

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J0832 (右脳:成人脳の正中断面を左側からの模式図)

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J0841 (脳幹:小脳の右半分が除去)

基本構造と位置

延髄(Medulla oblongata)は脳幹の最下部に位置し、上方は橋と、下方は脊髄と連続する生命維持に不可欠な神経構造である(Standring, 2021)。延髄は第1頸髄レベルから橋下縁まで約3cmの長さを有し、腹側面では錐体と呼ばれる隆起が特徴的である(Netter, 2019)。この錐体は皮質脊髄路の下行線維束であり、延髄下端で大部分が交叉する(錐体交叉)(Carpenter, 2019)。延髄の形態学的特徴として、正中溝、前外側溝、後外側溝が存在し、これらの溝は脊髄から連続している(Gray et al., 2021)。

外部形態

延髄の腹側面には、正中前裂の両側に錐体が存在し、その外側にはオリーブと呼ばれる楕円形の隆起が認められる(Crossman and Neary, 2019)。このオリーブは内部に下オリーブ核を含み、小脳との運動調節に重要な役割を果たす(Purves et al., 2018)。背側面では、第4脳室の下半部が延髄背側に開いており、その底部は菱形窩の下部を形成する(Haines, 2018)。後索結節は薄束核と楔状束核の隆起として観察され、これらは触覚と固有感覚の中継核である(Blumenfeld, 2021)。

内部構造と神経核

延髄内部には多数の重要な神経核が存在する。主要な運動核として、舌下神経核(第12脳神経)、疑核(第9、10、11脳神経の運動成分)が存在する(Kandel et al., 2021)。感覚核としては、孤束核(味覚と内臓感覚)、三叉神経脊髄路核(顔面の痛覚と温度覚)、前庭神経核の一部が含まれる(Bear et al., 2020)。自律神経核としては、迷走神経背側核(副交感神経)、孤束核(内臓求心性)が重要である(Fitzgerald et al., 2020)。

下オリーブ核複合体は、主オリーブ核と背側・内側副オリーブ核から構成され、対側の小脳との間にオリーブ小脳路を形成し、運動学習と協調運動に関与する(Voogd and Ruigrok, 2019)。

主要伝導路

延髄には複数の上行性および下行性伝導路が通過する。下行性路として、錐体路(皮質脊髄路)が最も重要であり、延髄下端で約80-90%が交叉して外側皮質脊髄路を形成する(Martin, 2020)。その他の下行性路には、皮質延髄路、赤核脊髄路、前庭脊髄路、網様体脊髄路が含まれる(Squire et al., 2018)。

上行性路としては、内側毛帯(触覚・固有感覚)が薄束核と楔状束核で中継された後、交叉して対側を上行する(Brodal, 2017)。脊髄視床路(痛覚・温度覚)は延髄を通過して視床に向かう(Mountcastle, 2019)。脊髄小脳路(前脊髄小脳路、後脊髄小脳路)は小脳への固有感覚情報を伝達する(Ghez and Fahn, 2018)。

呼吸・循環中枢

延髄には生命維持に不可欠な自律神経中枢が存在する。呼吸中枢は、背側呼吸群(吸息に関与)と腹側呼吸群(呼息に関与)から構成され、リズミックな呼吸運動を制御する(West, 2020)。循環中枢(心血管中枢)は、迷走神経背側核と疑核周囲の網様体に存在し、心拍数と血管運動の調節を行う(Loewy and Spyer, 2019)。その他、嘔吐中枢、嚥下中枢、咳嗽中枢なども延髄網様体に存在する(Benarroch et al., 2018)。

血管支配

延髄への動脈血供給は、椎骨脳底動脈系から供給される(Duvernoy et al., 2021)。正中部は前脊髄動脈の上行枝により、外側部は後下小脳動脈(PICA)および椎骨動脈の直接分枝により栄養される(Tatu et al., 2018)。下オリーブ領域は椎骨動脈からの穿通枝により供給される(Moriguchi and Takahashi, 2019)。静脈還流は、延髄周囲の静脈叢を経て内頸静脈系に注ぐ(Rhoton, 2019)。

臨床的意義

延髄の病変は生命に直結する重篤な症状を引き起こす。延髄外側症候群(Wallenberg症候群)は、後下小脳動脈閉塞により生じ、めまい、嚥下障害、Horner症候群、対側の温痛覚障害、同側の小脳失調などを呈する(Ropper et al., 2019)。延髄内側症候群は、前脊髄動脈閉塞により生じ、対側の片麻痺、対側の深部感覚障害、同側の舌下神経麻痺を呈する(Victor and Ropper, 2020)。

延髄圧迫(脳ヘルニア、後頭蓋窩腫瘍、Arnold-Chiari奇形など)は、呼吸停止や循環虚脱を引き起こし致死的となりうる(Greenberg, 2019)。また、延髄空洞症(syringobulbia)は、中心部の空洞形成により解離性感覚障害や球麻痺症状を呈する(Klekamp, 2018)。

多発性硬化症、脳幹脳炎、脳幹腫瘍などの炎症性・腫瘍性疾患も延髄に病変を形成しうる(Noseworthy et al., 2020)。遺伝性疾患としては、脊髄小脳変性症の一部で延髄の神経核変性が認められる(Paulson, 2018)。