
J0630 (右下肢の表在静脈:前面図)

J0632 (右下腿の表面静脈、背面からの図)
足背静脈網 Rete venosum dorsale pedis
解剖学的構造
足背静脈網(rete venosum dorsale pedis)は、足背部の皮下組織内に位置する表在性静脈叢であり、以下の構成要素から形成されます:
- 足背静脈弓(arcus venosus dorsalis pedis): 足背の横方向に走行する主要な静脈弓で、中足骨頭レベルに位置します。この静脈弓は、背側中足静脈および背側趾静脈からの血液を集め、内外側へ流出する主要な集合路を形成します(Moore et al., 2018)。
- 背側中足静脈(venae metatarsales dorsales): 第1〜4中足骨間隙を走行する4本の静脈で、隣接する趾の背側趾静脈から血液を集めます。これらは近位で足背静脈弓に合流します(Standring, 2020)。
- 背側趾静脈(venae digitales dorsales): 各趾の両側を走行する静脈で、趾背面の皮下組織から血液を集めます。第1趾を除き、隣接する2趾からの静脈が合流して背側中足静脈を形成します(Gray's Anatomy, 2020)。
- その他の小静脈群: 足背部皮下組織内に分布する多数の小静脈が、上記の主要静脈に流入します。これらの分布パターンには著しい個人差があります(Caggiati et al., 2006)。
足背静脈網の形態には顕著な個人差があり、静脈の数、太さ、走行パターンは個体によって大きく異なります。この変異性は、臨床的処置や画像診断において重要な考慮事項となります(Uhl et al., 2010)。
流出路と主要静脈との関係
足背静脈網は、下肢の2大表在静脈の起始部として機能します:
- 大伏在静脈(vena saphena magna): 足背静脈網の内側部から起始し、第1中足骨と内果の間を走行して下腿内側を上行します。下腿では脛骨内側縁の後方を、大腿では大腿骨内側上顆の後方を走行し、鼠径靭帯下方約3cmで大腿静脈に注ぎます。大伏在静脈は下肢で最も長い表在静脈であり、冠動脈バイパス術の材料として広く使用されます(Bradbury et al., 2021)。
- 小伏在静脈(vena saphena parva): 足背静脈網の外側部から起始し、外果の後方を回って下腿後面を上行します。通常、膝窩で膝窩静脈に注ぎますが、その合流部位には変異が多く、約25%の症例で大腿後面まで延長することが報告されています(O'Donnell et al., 2019)。
これらの表在静脈と深部静脈系は、穿通枝(perforating veins)によって連絡しており、一方向弁により通常は表在から深部への血流が維持されています(Gloviczki, 2017)。
臨床的意義
静脈穿刺と血管アクセス
足背静脈網は、末梢静脈路確保の重要な部位です。特に以下の状況で選択されます:
- 上肢静脈のアクセスが困難または不可能な場合
- 救急時における迅速な静脈路確保が必要な場合
- 長期的な上肢静脈アクセスの温存が必要な患者(例:透析予定患者)(Alexandrou et al., 2018)