踵骨動脈網 Rete calcaneum

J0601 (右下腿の動脈:背側からの図)

J0604 (右足底の動脈)
解剖学的構造
踵骨動脈網(Rete calcaneum)は、踵骨周囲に形成される豊富な血管吻合網であり、以下の解剖学的特徴を持ちます(Standring, 2020; Moore et al., 2018):
- **位置と分布:**踵骨隆起の後面、内側面、外側面の皮下組織および骨膜表面に広範囲に分布します。特に踵骨後面のアキレス腱付着部周囲で密な血管網を形成します(Haas et al., 2014)。
- **構成血管:**主に以下の動脈からの枝によって形成されます(Attinger et al., 2006):
- 内側踵骨枝(後脛骨動脈より分岐)- 踵骨内側面に分布
- 外側踵骨枝(腓骨動脈より分岐)- 踵骨外側面に分布
- 後踵骨枝(腓骨動脈より分岐)- 踵骨後面に分布
- 足底動脈弓からの小枝も一部関与
- **血管吻合の特徴:**外顆動脈網や内果動脈網と比較して、より多数の動脈枝が吻合し、複雑な三次元的血管網を形成します。これにより高度な血流予備能を有しています(Taylor et al., 2003)。
機能的意義
- **血液供給:**踵骨の骨膜、踵骨周囲の軟部組織(皮膚、皮下組織、筋膜)、アキレス腱付着部への豊富な血液供給を担います(Ahmed et al., 1998)。
- **側副血行路:**複数の動脈系からの吻合により、一つの血管が閉塞しても他の経路から血流が維持される重要な側副循環路となります(Attinger et al., 2006)。
- **創傷治癒:**踵部の創傷や骨折時の治癒過程において、この血管網が重要な役割を果たします(Haas et al., 2014)。
臨床的重要性
- **踵骨骨折:**踵骨骨折時には、この動脈網の損傷により骨折部への血流が障害され、骨癒合遅延や無腐性壊死のリスクが高まります。特に粉砕骨折では血管損傷が著しいことがあります(Folk et al., 1999)。
- **アキレス腱障害:**アキレス腱付着部炎や断裂時、踵骨動脈網からの血流が修復過程に関与します。血流不良は治癒遅延の原因となります(Ahmed et al., 1998)。
- **糖尿病性足病変:**糖尿病患者では末梢動脈疾患により踵骨動脈網の血流が低下し、踵部潰瘍の発生リスクが増大します。踵部は体重負荷部位であるため、虚血性潰瘍が生じやすく、難治性となります(Prompers et al., 2007)。
- **褥瘡:**長期臥床患者において、踵部は好発部位の一つです。局所的な圧迫により踵骨動脈網の血流が阻害され、組織壊死に至ります(Bennett et al., 2004)。
- **外科的アプローチ:**踵骨へのアプローチ(骨切り術、腫瘍切除など)の際、この血管網の温存が術後の創傷治癒や合併症予防に重要です。内側または外側からのアプローチでは、それぞれの踵骨枝を温存する必要があります(Benirschke et al., 2004)。
- **画像診断:**CTアンギオグラフィーやMRIアンギオグラフィーにより、踵骨動脈網の評価が可能です。術前評価や虚血性疾患の診断に有用です(Attinger et al., 2006)。
踵骨動脈網は、踵部の血液供給における中枢的役割を担っており、その解剖学的理解は整形外科、形成外科、血管外科、創傷ケアなどの臨床領域において極めて重要です(Standring, 2020)。
参考文献