


















J0763 (甲状腺、近隣の臓器に対する位置:背面からの図)




J0924 (胸腔および腹腔にある左迷走神経:左側からの図)



起始と走行
総頚動脈は頭頸部への主要な動脈供給路であり、左右で起始部位が異なる。右総頚動脈は腕頭動脈から分岐するのに対し、左総頚動脈は大動脈弓から直接分岐する。この解剖学的配置により、左総頚動脈は右側に比べて約4~5cm長い走行を示す (Standring, 2021; Moore et al., 2022)。
両側の総頚動脈は頸動脈鞘内を上行し、この鞘は内頚静脈(外側)、迷走神経(後方)とともに走行する。動脈は胸鎖乳突筋の深部を通過し、気管および喉頭の外側に位置する。甲状軟骨上縁の高さ(第3~4頚椎レベル)で、総頚動脈は内頚動脈と外頚動脈の2つの終枝に分岐する (Gray et al., 2020; Netter, 2023)。
解剖学的関係
頸動脈鞘は深頚筋膜の一部であり、総頚動脈を取り囲む結合組織構造である。この鞘内では、内頚静脈が動脈の外側に位置し、迷走神経が両者の後方を走行する。浅層では、胸鎖乳突筋が動脈を被覆し、深層では前椎骨筋群が後方に位置する (Standring, 2021)。
総頚動脈の分岐部付近には、頚動脈小体(carotid body)と頚動脈洞(carotid sinus)という2つの重要な解剖学的構造が存在する。頚動脈小体は分岐部の後方に位置する小さな化学受容器組織であり、頚動脈洞は内頚動脈起始部の拡張部である (Moore et al., 2022)。
頚動脈小体と頚動脈洞の機能
頚動脈小体は末梢化学受容器として機能し、動脈血中の酸素分圧、二酸化炭素分圧、pHの変化を感知する。特に低酸素状態(hypoxia)において、頚動脈小体は舌咽神経を介して延髄の呼吸中枢に信号を送り、呼吸促進を引き起こす。この機構は生体の酸素恒常性維持において極めて重要である (Kumar and Prabhakar, 2012; Prabhakar and Semenza, 2015)。
頚動脈洞は圧受容器(baroreceptor)として機能し、動脈血圧の変化を感知する。血圧上昇時には、頚動脈洞の伸展が舌咽神経を介して延髄の心臓血管中枢に伝達され、副交感神経活動の亢進と交感神経活動の抑制をもたらす。この頚動脈洞反射(carotid sinus reflex)は、短期的な血圧調節において中心的役割を果たす (Dampney, 2016; Chapleau and Abboud, 2001)。
臨床的注意点
総頚動脈の分岐部は動脈硬化性病変の好発部位である。血流の乱流が生じやすいこの部位では、アテローム性プラークが形成されやすく、頚動脈狭窄症の主要な原因となる。プラークの破綻や血栓形成により、脳梗塞(ischemic stroke)や一過性脳虚血発作(transient ischemic attack, TIA)を引き起こす可能性がある (Rothwell et al., 2005; Naylor, 2011)。
外科的処置において、総頚動脈の損傷は重大な合併症となりうる。頚部手術、特に甲状腺手術や頚部リンパ節郭清術では、頸動脈鞘とその内容物の解剖学的理解が不可欠である。動脈損傷は大量出血や脳虚血を引き起こす可能性があり、細心の注意が必要である (Standring, 2021)。
頚動脈洞マッサージは、頚動脈洞反射を利用した診断・治療手技である。しかし、この手技は徐脈、血圧低下、さらには失神を引き起こす可能性がある。特に高齢者や頚動脈狭窄症患者では、プラーク遊離による脳梗塞のリスクもあり、適応と禁忌を慎重に判断する必要がある (Munro et al., 1994)。
画像診断と評価
総頚動脈の評価には、超音波検査、CT血管造影(CTA)、MR血管造影(MRA)などの画像診断法が用いられる。頚動脈超音波検査は非侵襲的で、動脈壁の肥厚(intima-media thickness, IMT)やプラークの性状評価に有用である。IMTの増加は心血管疾患のリスク因子として知られている (Touboul et al., 2012)。