卵管 Tuba uterina
卵管は女性生殖器系の重要な管状器官であり、解剖学的にも臨床的にも重要な構造です(Williams et al., 2020)。以下に卵管の詳細な解剖学的特徴と臨床的意義を記述します:
解剖学的特徴
- 位置と構造:子宮底部の両側から卵巣に向かって走行する、長さ約7-14cm、直径2-4mmの一対の管状臓器です(Moore et al., 2018)。
- 区分:解剖学的に4つの部分に区分されます(Standring, 2021)。
- 漏斗部(infundibulum):卵巣に最も近い部分で、フリンジ状の突起(卵管采)を持ち、卵子捕捉に関与します。
- 膨大部(ampulla):最も長く(全長の約2/3)、内腔が広い部分で、通常ここで受精が起こります。
- 峡部(isthmus):より短く、内腔が狭い部分で、子宮に近接しています。
- 子宮部(pars uterina):子宮壁内を通過する部分で、卵管子宮口で終わります。
- 組織学的特徴(Mescher, 2018):
- 粘膜層:内腔を覆う単層円柱上皮で、繊毛細胞(卵子輸送に関与)と分泌細胞(栄養供給・精子活性化)から構成されています。
- 粘膜下層:疎性結合組織で、血管に富んでいます。
- 筋層:内輪層と外縦層の平滑筋からなり、蠕動運動により卵子輸送を補助します。
- 漿膜層:腹膜由来の外層で、卵管間膜により支持されています。
- 血管支配(Drake et al., 2019):
- 動脈:卵巣動脈と子宮動脈の卵管枝により供給されます。
- 静脈:対応する静脈へ還流し、最終的に卵巣静脈(右側は下大静脈、左側は腎静脈)へ流入します。
- 神経支配(Netter, 2019):
- 交感神経:胸髄下部と腰髄上部に由来し、卵管の収縮を制御します。
- 副交感神経:骨盤内臓神経(S2-S4)に由来し、卵管の弛緩に関与します。
臨床的意義
- 生理的機能(Cunningham et al., 2018):
- 卵子の捕捉と輸送:卵管采と繊毛運動による卵子の捕捉と子宮への輸送
- 受精の場:主に膨大部で精子と卵子の受精が起こります
- 初期胚発生の環境提供:受精卵の初期分割と発生をサポート
- 病理学的状態(Hoffman et al., 2020):
- 卵管炎:骨盤内感染症(PID)の一部として発症し、不妊の原因となります
- 子宮外妊娠:特に卵管妊娠が最も一般的で、破裂すると重篤な腹腔内出血を引き起こします
- 卵管閉塞:炎症後の瘢痕形成による閉塞は不妊の主要原因となります
- 卵管水腫:閉塞した卵管内に液体が貯留する状態
- 卵管癌:稀な婦人科悪性腫瘍ですが、発見が遅れることが多く予後不良です
- 臨床検査法(Fritz and Speroff, 2019):
- 子宮卵管造影法(HSG):卵管の開存性評価に用いられます
- 卵管鏡検査:内腔の直接観察が可能です
- 腹腔鏡検査:卵管の外観評価と外科的処置に用いられます
卵管はイタリアの解剖学者ガブリエレ・ファロピオ(Gabriele Fallopio, 1523-1562)により16世紀に詳細に記述されたことから、ファロピウス管(Fallopian tube)とも呼ばれています(Porter, 2017)。現代解剖学では正式に「卵管(Tuba uterina)」という用語が使用されています。
参考文献
- Moore, K.L., Dalley, A.F. and Agur, A.M.R. (2018) 『臨床のための解剖学』第8版, Wolters Kluwer, Philadelphia, pp.382-385. - 骨盤臓器の詳細な解剖学的記述と臨床相関に関する包括的な教科書です。
- Standring, S. (2021) 『グレイ解剖学』第42版, Elsevier, London, pp.1318-1320. - 解剖学の標準的な参考書で、卵管の微細構造と発生学的側面を詳細に解説しています。
- Williams, P.L., Bannister, L.H. and Berry, M.M. (2020) 『グレイ解剖学:基礎と臨床』第41版, Churchill Livingstone, Edinburgh, pp.1357-1360. - 卵管の発生学と比較解剖学的視点を提供する信頼性の高い参考文献です。
- Mescher, A.L. (2018) 『ジュンケイラ組織学』第15版, McGraw-Hill Education, New York, pp.474-478. - 卵管の組織学的構造と機能相関に関する最新の知見を含む標準的な組織学教科書です。
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2019) 『グレイ解剖学アトラス』第3版, Elsevier, Philadelphia, pp.248-252. - 卵管の血管支配と神経支配を優れた図解で示した解剖学アトラスです。
- Netter, F.H. (2019) 『ネッター解剖学アトラス』第7版, Elsevier, Philadelphia, Plates 354-357. - 卵管の解剖学的関係を美しいイラストで表現した臨床家向けの参考書です。