男性尿道 Urethra masculina

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J0784 (前立腺と精嚢、精管:前上方からの図)

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J0785 (射精管、前部および上部)

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J0789 (陰茎海綿体と尿生殖三角:下方からの図)

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J0790 (陰茎の断面図:陰茎体の断面)

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J0791 (陰茎の断面図:陰茎亀頭後部の断面)

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J0801 (男性の肛門挙筋:上面からの図)

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J0802 (男性の肛門挙筋:左側からの図)

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J0803 (男性の右側肛門挙筋と尿生殖三角:後上方からの図)

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J0804 (男性の尿生殖三角筋:下方からの図)

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J0807 (恥骨前立腺靭帯:上後方からの図)

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J0808 (男性骨盤:前面からの切断面)

男性尿道は膀胱頚部の内尿道口から陰茎亀頭先端の外尿道口まで約15~20cmの管状構造で、尿の排出と精液の射出という二重機能を持つ(Moore et al., 2018)。解剖学的位置に基づき、前立腺部、膜様部、海綿体部の3部に区分される(Standring, 2020)。

解剖学的構造

  1. 前立腺部尿道(pars prostatica urethrae):長さ約3~4cmで前立腺実質内を垂直に下行する(Drake et al., 2019)。後壁中央には膀胱三角部の頂点から連続する縦走隆起である尿道稜(crista urethralis)が存在し、その中央部は紡錘状に膨隆して精丘(colliculus seminalis)を形成する(Netter, 2019)。精丘には胎生期ミュラー管遺残物である前立腺小室(utriculus prostaticus)が開口し、男性子宮(uterus masculinus)とも称される(Standring, 2020)。この小室の両側に左右の射精管(ductus ejaculatorii)が開口し、精液を尿道内に放出する(Hansen, 2022)。精丘の両側には前立腺洞(sinus prostaticus)と呼ばれる溝状の陥凹があり、約15~30本の前立腺管(ductuli prostatici)が開口して前立腺液を分泌する(Moore et al., 2018)。
  2. 膜様部尿道(pars membranacea urethrae):尿道の3部の中で最短の約1~2cmで、尿生殖隔膜(diaphragma urogenitale)を貫通する(Netter, 2019)。この部分は外尿道括約筋(m. sphincter urethrae externus)により取り囲まれ、随意的な尿閉鎖機構を提供する(Shafik et al., 2003)。横紋筋である外尿道括約筋は骨盤底筋群の一部として排尿・排便の協調的制御に関与し、尿失禁防止に重要な役割を果たす(Strasser et al., 2000)。膜様部は尿生殖隔膜により強固に固定されているため、骨盤骨折などの外傷時に尿道損傷の好発部位となる(Latini et al., 2014)。
  3. 海綿体部尿道(pars spongiosa urethrae):最長部分で約12~14cmあり、陰茎を構成する尿道海綿体(corpus spongiosum urethrae)内を前方に走行する(Hansen, 2022)。亀頭内で拡張して尿道舟状窩(fossa navicularis urethrae)を形成し、その後端上壁には舟状窩弁(valvula fossae navicularis)と呼ばれる粘膜ヒダが存在する(Mauermayer, 1981)。海綿体部尿道の粘膜には多数の小陥凹であるモルガーニ陥凹(lacunae urethrales [Morgagni])があり、リトレ腺(glandulae urethrales [Littre])が開口して粘液を分泌し、尿道粘膜の保護と潤滑に寄与する(Mauermayer, 1981)。

尿道粘膜は部位により異なる上皮で覆われる。前立腺部は移行上皮、膜様部および海綿体部近位は重層円柱上皮、海綿体部遠位および舟状窩は重層扁平上皮からなり、この組織学的多様性が尿道炎の臨床像や治療反応性に影響を及ぼす(Hickey et al., 2011)。

臨床的意義

尿道狭窄(urethral stricture):炎症、外傷、医原性損傷後の線維化による尿道内腔の病的狭小化である(Latini et al., 2014)→膜様部は解剖学的固定性のため骨盤外傷時の損傷好発部位となり、特に骨盤骨折による尿道完全断裂では膜様部での離断が多い(Latini et al., 2014)→狭窄により排尿困難、尿線細小化、残尿感などの閉塞性症状を呈する

尿道炎(urethritis):淋菌(Neisseria gonorrhoeae)やクラミジア(Chlamydia trachomatis)などの性感染症病原体による尿道粘膜の炎症性疾患である(Krieger, 1996)→排尿痛、尿道掻痒感、尿道分泌物(膿性または粘液膿性)を特徴とする→淋菌性尿道炎は症状が顕著で分泌物が濃厚であるのに対し、非淋菌性尿道炎は症状が軽度で分泌物が少量である(Krieger, 1996)

尿道憩室(urethral diverticulum):尿道壁の限局性拡張により形成される嚢状の異常構造で、尿道周囲腺の感染後拡張や外傷後形成が原因となる(Beard and Goodyear, 1982)→憩室内に尿が貯留して排出障害、再発性尿路感染、排尿後尿滴下などの症状を呈する(Beard and Goodyear, 1982)

尿道下裂(hypospadias):胎生8~14週の尿道発生過程における尿道ヒダの癒合不全により、外尿道口が正常位置(亀頭先端)より近位側(亀頭下面、陰茎体部、陰嚢、会陰部)に開口する先天異常である(Baskin, 2000)→アンドロゲン受容体異常や5α-還元酵素欠損症などの内分泌学的要因が病因に関与する(Rey et al., 2000)→外尿道口位置異常に加えて陰茎の腹側屈曲(chordee)、包皮の背側への偏在(dorsal hood)を伴うことが多い(Baskin, 2000)

前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia):前立腺の良性過形成により前立腺部尿道が圧迫され、排尿困難、頻尿、夜間頻尿、尿勢低下などの下部尿路症状を呈する(Roehrborn, 2005)→移行帯(transition zone)の腺組織増殖が尿道を取り囲むように進行し、尿道内腔を狭小化させる(Roehrborn, 2005)

発生学的考察

男性尿道は胎生期の尿生殖洞(urogenital sinus)から発生し、外性器の性分化と密接に関連する(Baskin, 2000)。胎生8週頃までは男女共通の未分化段階にあり、その後アンドロゲンの作用により男性型への分化が進行する(Rey et al., 2000)。尿道の腹側面を形成する尿道ヒダ(urethral folds)が正中で癒合することにより尿道が管状化し、この過程の障害が尿道下裂の原因となる(Baskin, 2000)。前立腺は胎生10~12週に尿生殖洞から発芽する上皮芽が間葉組織に侵入することで形成され、アンドロゲン受容体を介したテストステロンおよびジヒドロテストステロンの作用が必須である(Rey et al., 2000)。

機能解剖学

男性尿道は尿排出路としての機能と精液射出路としての機能を併せ持つ(Moore et al., 2018)。前立腺部尿道より近位では尿路のみであるが、射精管開口部より遠位では尿路と生殖路を共有する二重機能管となる(Moore et al., 2018)。

排尿制御には内尿道括約筋(平滑筋)と外尿道括約筋(横紋筋)の二重括約筋機構が関与する(Shafik et al., 2003)。内尿道括約筋は膀胱頚部に位置し、交感神経支配により不随意的に収縮して尿の漏出を防ぐ(Shafik et al., 2003)。外尿道括約筋は膜様部を取り囲み、陰部神経支配により随意的収縮が可能で、排尿の開始と停止を制御する(Strasser et al., 2000)。外尿道括約筋は骨盤底筋群(特に肛門挙筋)と協調して作用し、排尿・排便・性機能の統合的制御に寄与する(Shafik et al., 2003)。

射精時には、交感神経刺激により精嚢と前立腺が収縮して分泌液を射精管を通じて前立腺部尿道に放出し、続いて球海綿体筋と坐骨海綿体筋のリズミカルな収縮により精液が尿道を通じて体外に射出される(Moore et al., 2018)。