披裂関節面(輪状軟骨の)Facies articularis arytenoidea cricoideae

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J0731 (輪状軟骨:後方からの図)

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J0732 (輪状軟骨:右側からの図)

1. 解剖学的位置と構造

輪状軟骨の披裂関節面は、輪状軟骨板(lamina of cricoid cartilage)の上縁外側部に位置する、後上外側に向いた卵円形の関節面です。この関節面は、披裂軟骨底部の関節面と連結し、真の滑膜性関節である輪状披裂関節(cricoarytenoid joint)を形成します(Standring, 2020; Rosen et al., 2023)。

関節面の形態学的特徴として、長径約7〜9mm、横径約4〜5mmの楕円形を呈し、硝子軟骨で覆われています(Drake et al., 2019)。関節面はわずかに凸面状で、輪状軟骨板の長軸に対して約40〜50度の角度で上外側に傾斜しています(Paulsen and Waschke, 2022)。関節包は薄く、関節腔は狭小で、滑液で満たされており、披裂軟骨の円滑な運動を可能にしています(Gray and Standring, 2021)。

組織学的には、関節面は厚さ約0.5〜1.0mmの硝子軟骨層で覆われており、その下には石灰化軟骨層と軟骨下骨が存在します(Netter, 2023)。加齢とともに関節面の石灰化や骨化が進行することが知られています(Sataloff, 2017)。

2. 機能的役割

輪状披裂関節は、披裂軟骨の回転運動(rotation)と滑走運動(gliding)を可能にする複合関節です(Moore et al., 2021)。この関節における運動は、声帯の内転(adduction)・外転(abduction)、および声帯の緊張調節において中心的な役割を果たします(Sataloff and Hawkshaw, 2022)。

具体的には、後輪状披裂筋(posterior cricoarytenoid muscle)の収縮により披裂軟骨が外旋し、声帯突起が外側に移動することで声門が開大します(Standring, 2020)。一方、側輪状披裂筋(lateral cricoarytenoid muscle)の収縮により披裂軟骨が内旋し、声帯が内転します(Drake et al., 2019)。また、甲状披裂筋(thyroarytenoid muscle)との協調作用により、声帯の微細な長さと緊張の調整が行われ、音高の制御に寄与します(Netter, 2023)。

バイオメカニクス的には、この関節は約20〜30度の回転運動と約2〜3mmの滑走運動が可能であり、発声時には毎秒数百回の精密な位置調整が行われています(Titze, 2021)。

3. 臨床的意義

輪状披裂関節の病態は、音声障害の重要な原因となります。関節炎(cricoarytenoid arthritis)は、関節リウマチや感染症により生じ、嗄声、発声困難、嚥下障害を引き起こします(Rosen and Simpson, 2020)。特に関節リウマチ患者の約30%に喉頭関節の炎症が認められるとされています(Rubin et al., 2022)。

輪状披裂関節固着(cricoarytenoid joint fixation)は、外傷、長期挿管、関節炎の後遺症として発生し、声帯運動の制限をきたします(Hillel et al., 2019)。この状態は、反回神経麻痺(recurrent laryngeal nerve paralysis)との鑑別が重要であり、喉頭内視鏡検査での披裂軟骨の触診(palpation)や画像診断(CT、MRI)が有用です(Sataloff, 2017)。

気管挿管時には、不適切なチューブ操作により関節の脱臼や軟骨損傷が生じることがあり、麻酔科医にとって重要な解剖学的構造です(Paulsen and Waschke, 2022)。また、喉頭外傷や頸部手術の際にも損傷のリスクがあり、術後の音声評価が必要となります(Moore et al., 2021)。

治療法としては、保存的治療(音声安静、抗炎症薬)、音声治療、ステロイド注射、さらには外科的介入(関節授動術、披裂軟骨内転術)などが選択されます(Rosen et al., 2023)。

参考文献