尾状葉(肝臓の)Lobus caudatus hepatis

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J0709 (腹膜の折り返し部分と肝臓:上方からの図)

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J0710 (腹膜の折り返し部分と肝臓:下後方からの図)

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J0721 (小網:前方からの図)

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J0727 (男性の正中矢状断での腹膜の経過:赤色、やや模式的に示している)

解剖学的位置と構造

肝臓の尾状葉(Lobus caudatus hepatis)は、下大静脈と静脈管索(ligamentum venosum)の間に位置する独立した肝葉です(Couinaud, 1957)。尾状葉は肝臓の背側面(後面)に存在し、Couinaud分類における第Ⅰ区域(Segment I)に該当します(Bismuth, 1982; Skandalakis et al., 2004)。この領域は肝門部の後方に位置し、下大静脈の前面に接しています(Goldsmith and Woodburne, 1957)。

尾状葉の血管支配は他の肝区域とは異なり、左右両方の門脈枝および肝動脈枝から血液供給を受ける特徴があります(Hjortsjo, 1948; Healey and Schroy, 1953)。静脈還流に関しては、尾状葉から直接下大静脈へ注ぐ短肝静脈(short hepatic veins)を有しており、主肝静脈系を介さない独自の静脈ドレナージ経路を持つことが特徴的です(Nakamura and Tsuzuki, 1981; Murakami and Hata, 2002)。

形態学的特徴

形態学的には、尾状葉は乳頭突起(Processus papillaris)と尾状突起(Processus caudatus)の2つの主要な部分に区別されます(Kumon, 1992; Kogure et al., 2000)。乳頭突起は尾状葉の左側部分であり、肝左葉と下大静脈の間に位置します(Ishii et al., 2012)。一方、尾状突起は尾状葉の右側延長部分であり、肝右葉との移行部に存在します(Takayama et al., 1990)。

尾状葉の表面は小網(lesser omentum)に覆われていますが、下大静脈に接する部分では腹膜を欠き、直接結合組織によって下大静脈と結合しています(Kogure et al., 1999; Murakami and Hata, 2002)。この解剖学的特徴により、尾状葉は肝外性門脈閉塞時や肝静脈閉塞時においても血流が保たれやすい構造となっています(Sato et al., 1996)。

尾状葉の大きさには個人差があり、その体積は全肝容積の約2-3%を占めるとされています(Dodds et al., 1990)。また、加齢とともに尾状葉の相対的サイズが増加する傾向が報告されています(Zoli et al., 1999)。

臨床的意義

臨床的に、尾状葉は様々な肝疾患において重要な役割を果たします。肝硬変では門脈圧亢進に伴い、尾状葉は他の肝区域と比較して相対的に肥大する傾向があります(Harbin et al., 1980; Giorgio et al., 1986)。これは尾状葉が独自の静脈還流路を持つため、肝静脈うっ滞の影響を受けにくく、代償性に肥大するためと考えられています(Okazaki et al., 1986)。尾状葉幅と右葉幅の比(caudate-right lobe ratio)が0.65以上であることは、肝硬変の診断において有用な画像所見とされています(Harbin et al., 1980)。

バッド・キアリ症候群(Budd-Chiari syndrome)では、肝静脈の閉塞により主肝静脈系からの還流が障害されますが、尾状葉は短肝静脈を介して直接下大静脈へドレナージされるため、著明な代償性肥大を示すことが特徴的な所見です(Tavill et al., 1975; Cazals-Hatem et al., 2003)。CT画像やMRI画像での尾状葉の著明な肥大は、バッド・キアリ症候群の診断において重要な手がかりとなります(Noone et al., 1982)。

肝細胞癌などの肝腫瘍が尾状葉に発生した場合、外科的切除は技術的に困難です(Yamamoto et al., 1999)。これは尾状葉が下大静脈の前面に位置し、周囲に重要な血管構造が存在するためです(Takayama et al., 1990; Ikegami et al., 2008)。しかし近年、詳細な解剖学的知識に基づく尾状葉切除術(caudate lobectomy)の手技が確立され、尾状葉原発の肝腫瘍に対しても安全な切除が可能となってきています(Takayama and Makuuchi, 2011; Tanaka et al., 2012)。

また、尾状葉は肝移植において重要な意義を持ちます。生体肝移植では、通常尾状葉は摘出されますが、その温存の可否や移植後の再生能力について議論が続いています(Marcos et al., 2000; Ogura et al., 2010)。

参考文献