孤立リンパ小節(小腸の)Noduli lymphoidei solitarii intestini tenuis

J0695 (回腸の断面図:腸間膜の起源で切り開かれ、広げられました)

J0696 (回腸の断面図:腸間膜の起源で切り開かれ、広げられました)

J0697 (小腸壁の構造)

J0698 (小腸の腸絨毛:上部の図)

J0699 (小腸の腸絨毛:下部の図)
解剖学的特徴
小腸の孤立リンパ小節は、粘膜固有層内に散在する小型の球状リンパ組織の集合体です(Brandtzaeg et al., 2008)。これらは直径0.2〜3mm程度の半球状ないし円形の構造物で(Cornes, 1965)、主に回腸に多く分布しており、近位から遠位にかけてその数が増加します。十二指腸には稀で、空腸では散在性に認められ、回腸では粘膜1cm²あたり約15〜20個と高密度に分布します(Spencer et al., 1985)。胎生期から出生後にかけて徐々に発達し、思春期に最大数に達した後、加齢とともに減少する傾向があります(Cornes, 1965)。
微細構造
解剖学的には、孤立リンパ小節は明瞭な胚中心(germinal center)を持つ二次リンパ小節として観察され、その周囲を濃密なB細胞が取り囲むマントル層(mantle zone)が形成される構造を呈します(Mowat and Agace, 2014)。胚中心には活発に増殖するB細胞、濾胞樹状細胞(follicular dendritic cells)、およびT細胞が存在します(Butcher et al., 1982)。リンパ小節は粘膜固有層に存在しますが、発達したものは粘膜筋板を貫通して粘膜下層にまで達することがあります(Owen and Jones, 1974)。上皮側には特殊なM細胞(microfold cells)を含む濾胞関連上皮(follicle-associated epithelium: FAE)が存在し、腸管腔内の抗原や微生物を効率的に取り込む役割を担っています(Neutra et al., 2001)。M細胞は通常の腸上皮細胞とは異なり、微絨毛が少なく、基底側の深い陥凹内にリンパ球やマクロファージを保持する特徴的な形態を示します(Owen, 1999)。
機能的役割
機能的には、孤立リンパ小節は腸管関連リンパ組織(gut-associated lymphoid tissue: GALT)の重要な構成要素として、消化管粘膜の免疫防御の最前線を形成しています(Hooper and Macpherson, 2010)。M細胞を介して取り込まれた抗原は、リンパ小節内の抗原提示細胞(樹状細胞やマクロファージ)によって処理され、T細胞とB細胞に提示されます(Neutra et al., 2001)。この過程で活性化されたB細胞は、腸管腔への分泌型IgA抗体産生細胞へと分化し、腸内細菌叢や食物抗原に対する免疫応答を調節します(Brandtzaeg et al., 2008)。また、制御性T細胞(regulatory T cells)の誘導を通じて、腸管における免疫寛容の維持にも寄与しています(Coombes and Powrie, 2008)。孤立リンパ小節は、集合リンパ小節(Peyer板)とともに、腸管免疫系における抗原サンプリングと免疫応答の誘導部位として機能します(Mowat, 2003)。
臨床的意義
腸チフス(Salmonella typhi感染症)では、病原体が孤立リンパ小節およびPeyer板に侵入して増殖し、リンパ小節の著明な腫大と壊死性潰瘍を形成することが知られています(Butler, 2011)。クローン病などの炎症性腸疾患では、孤立リンパ小節が腫大し、潰瘍化することがあります(Xavier and Podolsky, 2007)。特にクローン病では、初期病変として孤立リンパ小節を中心にアフトイド潰瘍(aphthoid ulcer)が形成されることが特徴的であり、これは疾患の診断的特徴の一つとされています(Fujimura et al., 1996)。また、MALTリンパ腫(mucosa-associated lymphoid tissue lymphoma)などのリンパ増殖性疾患や悪性リンパ腫の発生母地となることもあります(Spencer et al., 2012; Isaacson and Wright, 1983)。過形成性ポリポーシス(benign lymphoid polyposis)では、多数の孤立リンパ小節が過形成を起こし、ポリープ状に隆起することがあります(Ranchod et al., 1978)。内視鏡検査では、正常な孤立リンパ小節は小さな白色ないし黄白色の半球状隆起として観察され、特に回腸末端部で顕著です(Lamps, 2011)。
参考文献
- Brandtzaeg, P., Kiyono, H., Pabst, R. and Russell, M.W. (2008) 'Terminology: nomenclature of mucosa-associated lymphoid tissue', Mucosal Immunology, 1(1), pp. 31-37. → 粘膜関連リンパ組織の命名法と分類に関する国際的コンセンサス
- Butler, T. (2011) 'Treatment of typhoid fever in the 21st century: promises and shortcomings', Clinical Microbiology and Infection, 17(7), pp. 959-963. → 腸チフスにおけるリンパ組織の病理学的変化と治療
- Butcher, E.C., Rouse, R.V., Coffman, R.L., Nottenburg, C.N., Hardy, R.R. and Weissman, I.L. (1982) 'Surface phenotype of Peyer's patch germinal center cells: implications for the role of germinal centers in B cell differentiation', Journal of Immunology, 129(6), pp. 2698-2707. → リンパ小節胚中心における細胞分化機構
- Coombes, J.L. and Powrie, F. (2008) 'Dendritic cells in intestinal immune regulation', Nature Reviews Immunology, 8(6), pp. 435-446. → 腸管における樹状細胞の免疫調節機能
- Cornes, J.S. (1965) 'Number, size, and distribution of Peyer's patches in the human small intestine', Gut, 6(3), pp. 225-229. → ヒト小腸におけるリンパ組織の分布に関する古典的研究
- Fujimura, Y., Kamoi, R. and Iida, M. (1996) 'Pathogenesis of aphthoid ulcers in Crohn's disease: correlative findings by magnifying colonoscopy, electron microscopy, and immunohistochemistry', Gut, 38(5), pp. 724-732. → クローン病におけるアフトイド潰瘍の形成機序
- Hooper, L.V. and Macpherson, A.J. (2010) 'Immune adaptations that maintain homeostasis with the intestinal microbiota', Nature Reviews Immunology, 10(3), pp. 159-169. → 腸内細菌叢と宿主免疫系の相互作用
- Isaacson, P.G. and Wright, D.H. (1983) 'Malignant lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue: a distinctive type of B-cell lymphoma', Cancer, 52(8), pp. 1410-1416. → MALTリンパ腫の概念と病理学的特徴
- Lamps, L.W. (2011) 'Pathology of the small intestine', in Odze, R.D. and Goldblum, J.R. (eds.) Surgical Pathology of the GI Tract, Liver, Biliary Tract and Pancreas. 2nd edn. Philadelphia: Saunders Elsevier, pp. 387-491. → 小腸リンパ組織の内視鏡的・病理学的所見