漿膜(小腸の)Tunica serosa intestini tenuis

小腸の漿膜は、最外層に位置する薄い半透明の膜構造で、単層扁平中皮(中皮細胞)によって覆われています(Mescher, 2018)。その深層には疎性結合組織からなる漿膜下組織(tela subserosa)が存在し、この組織を介して筋層と結合しています(Young et al., 2014)。漿膜下組織には毛細血管、リンパ管、神経終末が豊富に分布しており、腸管の栄養供給や神経支配に重要な役割を果たしています(Standring, 2021)。小腸の漿膜は、腸間膜付着部(腸間膜縁)で腸間膜の漿膜に連続的に移行します。

臨床的意義

漿膜は腹膜炎や癒着形成に重要な役割を担っています(Brunicardi et al., 2019)。炎症が漿膜に及ぶと、フィブリン析出による癒着が形成され、これが腸閉塞の原因となることがあります(Townsend et al., 2022)。また、小腸の穿孔や腫瘍の浸潤が漿膜に達すると、腹膜播種や急性腹膜炎を引き起こす可能性があります(Feldman et al., 2020)。外科手術において、漿膜層の完全性を維持することは術後の癒着予防と腸管治癒に不可欠です(Zinner and Ashley, 2019)。漿膜の血管構造は、虚血性腸疾患の評価や手術時の血流評価に重要な指標となります(Cameron and Cameron, 2020)。

参考文献

J694.png

J0694 (小腸(空腸)の部分は、一部が腸間膜の基部で切り開かれた図)

J697.png

J0697 (小腸壁の構造)