
J0694 (小腸(空腸)の部分は、一部が腸間膜の基部で切り開かれた図)

J0697 (小腸壁の構造)
漿膜(小腸の)Tunica serosa intestini tenuis
構造的特徴
- 小腸の最外層に位置する薄い半透明の膜構造で、腹腔内臓器の表面を覆う腹膜の一部を構成する(Mescher, 2018; Ross and Pawlina, 2020)
- 単層扁平中皮(mesothelium)によって覆われ、中皮細胞は基底膜上に配列し、腹腔内での腸管の滑らかな運動を可能にし、臓器間の摩擦を最小限に抑える(Kierszenbaum and Tres, 2019;Standring, 2021)
- 中皮細胞表面には微絨毛(microvilli)が存在し、漿液の分泌と吸収を促進するとともに、表面積を増大させて腹腔内の潤滑機能を高める(Gartner and Hiatt, 2017; Young et al., 2014)
- 深層には疎性結合組織からなる漿膜下組織(tela subserosa)が存在し、筋層(外縦走筋層)と漿膜を結合する(Young et al., 2014; Eroschenko, 2017)
- 漿膜下組織には毛細血管、リンパ管、神経終末(主に自律神経線維)が豊富に分布し、腸管の栄養供給や神経支配、リンパ還流に重要な役割を果たす(Standring, 2021; Drake et al., 2020)
- 腸間膜付着部(腸間膜縁、mesenteric border)で腸間膜の漿膜に連続的に移行し、腸間膜を通じて上腸間膜動脈・静脈の分枝および腸間膜神経叢が腸管壁に到達する(Moore et al., 2018; Netter, 2019)
- 腸間膜の反対側(自由縁、free border)では漿膜が腸管を完全に覆い、腹腔内で他の臓器や腹膜と接触する(Standring, 2021)
- 組織学的には、漿膜は内臓腹膜(visceral peritoneum)の一部であり、壁側腹膜(parietal peritoneum)と連続している(Ross and Pawlina, 2020; Mescher, 2018)
臨床的意義
- 腹膜炎や癒着形成に重要な役割を担い、中皮細胞の損傷は腹腔内病態の中心的要因となる(Brunicardi et al., 2019; Mulholland et al., 2020)
- 炎症が漿膜に及ぶと、血管透過性の亢進によりフィブリン析出が生じ、癒着が形成され、腸閉塞の原因となる(Townsend et al., 2022; Debas et al., 2020)
- 癒着形成のメカニズムは、中皮細胞の損傷と脱落、線維芽細胞の活性化、I型およびIII型コラーゲンの沈着、線維化の進行という段階的過程に起因する(Saed and Diamond, 2021; Holmdahl et al., 2001)
- 小腸の穿孔や腫瘍の浸潤が漿膜に達すると、腹膜播種(peritoneal carcinomatosis)や急性腹膜炎を引き起こす可能性があり、予後に重大な影響を及ぼす(Feldman et al., 2020; Yamada et al., 2019)
- 腫瘍の病期分類(TNM分類)において、漿膜への浸潤の有無(T3/T4の境界)は予後を大きく左右する重要な因子であり、外科的切除範囲や補助療法の決定に影響する(Washington and Leung, 2021; Compton et al., 2019)
- 外科手術において、漿膜層の完全性を維持することは術後の癒着予防と腸管治癒に不可欠であり、漿膜損傷の範囲が術後合併症の発生率と相関する(Zinner and Ashley, 2019; Fischer et al., 2018)
- 縫合時には漿膜を含む全層縫合(full-thickness suture)が推奨され、腸管の密閉性と吻合部強度が確保される(Souba et al., 2019; Rullier et al., 2013)
- 漿膜の血管構造は、虚血性腸疾患の評価や手術時の血流評価に重要な指標であり、漿膜の色調変化は腸管虚血の早期診断に用いられる(Cameron and Cameron, 2020; Tilsed et al., 2016)