口蓋扁桃

口蓋扁桃は、舌口蓋弓と咽頭口蓋弓の間に位置する扁桃で、最も大きく発達したものです。肉眼解剖学的には、アーモンドの種に似た形をしており、組織学的には重層扁平上皮で覆われています。しかし、この上皮が深く落ち込んでおり、十数個の陰窩(crypts)を形成しています。これらの陰窩に沿って、上皮の下層にリンパ小節が並んでいます。扁桃窩は発生上は第2鰓嚢の残りとされており、扁桃窩の前方部には三角ヒダが口蓋舌弓から張り出し、上方では口蓋舌弓と口蓋咽頭弓を半月ヒダが結んでいます。口蓋扁桃に占められない扁桃窩の部分を扁桃上窩と呼びます。口蓋扁桃の表面に認められる小さな陥凹は扁桃小窩と呼ばれ、これは扁桃の上皮が陥入してつくる扁桃陰窩の上皮表面への開口部を示しています。

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J0675 (右の口蓋扁桃、左と発達度が異なります)

J0676 (右の口蓋扁桃、左と発達度が異なります)

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J0677 (右の口蓋扁桃:水平切断、上方からの図)

日本人のからだ(村上 弦 2000)によると

扁桃輪の中で最大のものである口蓋扁桃は、一般的に内外側方向に扁平で上下に長い楕円形を呈します。上極と下極が区別されます。口蓋扁桃は中咽頭に位置し、口蓋舌弓(前口蓋弓)と口蓋咽頭弓(後口蓋弓)に挟まれた扁桃窩(扁桃洞とも呼ばれる)に存在します。口蓋扁桃の上部はしばしば口蓋舌弓に食い込んでいます。扁桃窩という用語は大きな陰窩に対して使われることがあります(野坂ら、1985)。

前後の口蓋弓をつなぐ粘膜ヒダは半月襞と呼ばれます。また、口蓋舌弓の粘膜が垂れ下がって、しばしば口蓋扁桃前部にかかるヒダ(三角ヒダ)を形成します。三角ヒダは扁桃摘出時の進入口として重視され、扁桃ヒダと呼ばれることもあります(仁木、1973、1974)。三角ヒダの下部では、口蓋扁桃と舌扁桃の間にもしばしばリンパ組織が存在し、中間扁桃と呼ばれます(野坂ら、1985)。

口蓋扁桃は生後1ヵ月までは非常に小さく、6ヵ月から発育を始め、生後1年でほぼ扁桃としての形態的特徴を示します(野坂ら、1985)。その後の大きさや組織学的な変化には個体差が大きいですが、一般的に7-8歳で最大(3.5g前後、容積3.6 cc前後)に達します。なお、国内で報告された最大の口蓋扁桃は15g、14 cc前後です(松井・前田、1960)。

口蓋扁桃は加齢に伴い、組織学的にはコラーゲン線維の増加と脂肪変性が進み、扁桃実質の比率やリンパ節の占める比率、上皮へのリンパ球遊走数は、加齢とともに単調に減少します。しかし、扁桃の大きさに対するリンパ節数や陰窩あたりのリンパ球遊走数には個体差が大きいため、加齢変化は必ずしも認められません(原田、1989)。

口蓋扁桃の供給動脈については、128側中で上行口蓋動脈が113側、その他の顔面動脈枝が85側という所見があります(亀田、1936)。また、大血管と口蓋扁桃の位置関係については一條・杉崎(1941)の所見があります。

口蓋扁桃の骨・軟骨形成

口蓋扁桃では、骨・軟骨の形成がしばしば見られます(321体中53例)。これらの形成は扁桃被膜内または中隔の結合組織内に位置し、集塊状または散在性です。多くの若年例が含まれているため、これは加齢現象とは考えにくいです。しかし、該当例の扁桃組織は萎縮傾向にあります。炎症所見は多くの場合伴いません(佐賀、1961)。

振子様扁桃