








口蓋扁桃は、口腔咽頭の側壁に位置し、舌口蓋弓(前口蓋弓、palatoglossal arch)と咽頭口蓋弓(後口蓋弓、palatopharyngeal arch)の間の扁桃窩(tonsillar fossa)に存在する楕円形の扁桃組織である(Standring et al., 2016)。ワルダイエル咽頭輪(Waldeyer's tonsillar ring)を構成する扁桃の中で最も大きく発達したものである。肉眼解剖学的には、成人では長径約20-25mm、短径約10-15mm、厚さ約10-12mmで、アーモンドの種(almond)に似た形態を呈する(Moore et al., 2018)。扁桃の外側面(lateral surface)は結合組織性の被膜(扁桃被膜、tonsillar capsule)で覆われており、この被膜は周囲の咽頭筋膜(pharyngobasilar fascia)と結合している(Drake et al., 2020)。扁桃被膜の外側には咽頭収縮筋の上咽頭収縮筋(superior constrictor muscle)が位置し、さらにその外側には傍咽頭間隙(parapharyngeal space)が存在する(Bailey, 2018)。
組織学的には、口蓋扁桃は非角化重層扁平上皮(non-keratinized stratified squamous epithelium)で覆われており、この上皮が深く陥入して10-20個の扁桃陰窩(tonsillar crypts)を形成している(Mescher, 2018)。これらの陰窩の深さは個人差があるが、8-10mmに達することもある。陰窩上皮は部分的に網状上皮(reticular epithelium)に変化しており、リンパ球の通過を容易にしている(Brandtzaeg, 2011)。陰窩の周囲には多数のリンパ小節(lymphoid follicles)が存在し、これらは胚中心(germinal centers、二次小節)を持つことが多く、活発な免疫応答の場となっている。リンパ小節間にはT細胞領域(T-cell zones)が存在し、口蓋扁桃全体として抗原提示と適応免疫応答の重要な誘導部位となっている(Perry and Whyte, 2008)。血液供給は主に顔面動脈(facial artery)の分枝である口蓋扁桃動脈(tonsillar branch)および上行咽頭動脈(ascending pharyngeal artery)によって行われ、静脈還流は咽頭静脈叢(pharyngeal venous plexus)を経て内頸静脈(internal jugular vein)に流入する(Drake et al., 2020)。神経支配は主に舌咽神経(glossopharyngeal nerve、第IX脳神経)の咽頭枝(pharyngeal branches)によって行われている。
発生学的には、口蓋扁桃は第2鰓嚢(second pharyngeal pouch)の内胚葉性上皮に由来する(Sadler, 2019)。胎生9-12週頃から発達が始まり、周囲の間葉組織からリンパ球が浸潤して扁桃組織を形成する(Schoenwolf et al., 2021)。出生時にはすでに形成されているが、生後急速に発達し、5-10歳頃に最大サイズに達する。思春期以降は徐々に退縮する傾向にあるが、個人差が大きい。この年齢依存性の変化は、胸腺の退縮と同様に、免疫系の成熟と関連していると考えられている(Nave et al., 2001)。
扁桃窩(tonsillar fossa)は口蓋扁桃が存在する陥凹で、その前方部には三角ヒダ(plica triangularis)が口蓋舌弓から張り出している(Fehrenbach and Herring, 2017)。上方では口蓋舌弓と口蓋咽頭弓を半月ヒダ(plica semilunaris)が結んでいる。口蓋扁桃に占められない扁桃窩の上部を扁桃上窩(supratonsillar fossa)と呼ぶ。口蓋扁桃の外側面は結合組織性の被膜に覆われ、その外側には上咽頭収縮筋が位置している。臨床的に重要なのは、扁桃の外側約2-3cm後方に内頸動脈(internal carotid artery)が走行するため、扁桃摘出術(tonsillectomy)の際には出血のリスクに注意が必要である(Bailey, 2018)。また、扁桃周囲膿瘍(peritonsillar abscess、quinsy)は扁桃被膜と咽頭筋膜の間の潜在的間隙(potential space)に膿が貯留する病態である。急性扁桃炎に続発することが多く、重篤な場合は気道閉塞(airway obstruction)や縦隔炎(mediastinitis)、さらには降下性壊死性縦隔炎(descending necrotizing mediastinitis)を引き起こす可能性がある(Flint et al., 2021)。
口蓋扁桃の表面に認められる小さな陥凹は扁桃小窩(tonsillar pits)と呼ばれ、これは扁桃上皮が陥入して形成する扁桃陰窩の上皮表面への開口部である。これらの陰窩は細菌や抗原が停滞しやすい構造となっており、免疫監視(immune surveillance)の場として機能する(Brandtzaeg, 2015)。口蓋扁桃は粘膜関連リンパ組織(mucosa-associated lymphoid tissue、MALT)の一部であり、上気道に侵入する病原体に対する最初の防御線として働く。特に分泌型IgA(secretory IgA)産生を中心とした局所免疫応答の誘導に重要な役割を果たしている(Kiyono and Fukuyama, 2004)。また、T細胞やB細胞の活性化と分化の場としても機能し、全身免疫系の発達にも寄与している(Perry and Whyte, 2008)。慢性扁桃炎(chronic tonsillitis)や扁桃肥大(tonsillar hypertrophy)は、特に小児において閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome)や嚥下障害(dysphagia)、発音障害(speech disorders)などの原因となることがある(Georgalas et al., 2014)。
口蓋扁桃は単なる病原体捕捉器官ではなく、免疫寛容(immune tolerance)の誘導にも関与している可能性が示唆されている(Palomares et al., 2018)。扁桃内には、樹状細胞(dendritic cells)、マクロファージ(macrophages)、M細胞(microfold cells)などの抗原提示細胞が豊富に存在し、これらが抗原の取り込みと提示を行っている(Nave et al., 2001)。また、口蓋扁桃内の樹状細胞サブセットの特異的な分布と機能が明らかになりつつあり、これらの細胞が口腔内フローラ(oral microbiota)との共生関係維持に重要な役割を果たしていることが報告されている(Dutzan et al., 2017)。さらに、口蓋扁桃の免疫細胞構成は年齢とともに変化することが示されており、これが加齢に伴う免疫応答の変化に関連している可能性がある(Weller et al., 2004)。最近の研究では、口蓋扁桃が制御性T細胞(regulatory T cells、Tregs)の誘導部位としても機能し、経口免疫寛容の確立に寄与している可能性が指摘されている(Pabst and Slack, 2020)。
進化的観点からは、口蓋扁桃に相当する構造は多くの哺乳類に存在するが、その発達度や位置には種差がある(Smith et al., 2013)。霊長類(primates)では比較的大きく発達しているが、げっ歯類(rodents)では相対的に小さいことが知られている。また、鳥類(birds)や爬虫類(reptiles)には口蓋扁桃と完全に相同な構造は存在せず、これらの動物では異なる免疫学的防御機構、例えばハーダー腺(Harderian gland)や気管支関連リンパ組織(bronchus-associated lymphoid tissue、BALT)が発達している(Kumar and Sharma, 2010)。ヒトの口蓋扁桃が他の霊長類に比べて比較的大きいことは、直立二足歩行による気道の構造変化と、それに伴う上気道感染症への曝露増加に対する適応である可能性が示唆されている(Nishimura, 2003)。