






口蓋咽頭弓は口蓋扁桃窩の後方に位置する口蓋と咽頭壁の間に伸びる粘膜のヒダです。解剖学的には口蓋帆の後縁から下咽頭側壁に向かって弧状に走行しており、口蓋咽頭筋(m. palatopharyngeus)がその内部を走行しています(Standring, 2020)。左右の口蓋咽頭弓は、口腔から咽頭への通路である口峡(isthmus faucium)の後方境界を形成します(Drake et al., 2020)。
口蓋咽頭弓の前方には口蓋舌弓(arcus palatoglossus)が位置し、両者の間に口蓋扁桃窩(fossa tonsillaris)が形成されます(Moore et al., 2018)。この窩には口蓋扁桃(tonsilla palatina)が存在し、リンパ組織としてワルダイエル咽頭輪(Waldeyer's ring)の一部を構成しています(Netter, 2019)。口蓋咽頭弓の上端は軟口蓋(palatum molle)に連続し、下端は咽頭側壁に移行します(Sinnatamby, 2011)。
口蓋咽頭筋は軟口蓋の口蓋腱膜(aponeurosis palatina)から起始し、咽頭側壁の甲状軟骨後縁および食道筋層に停止します(Standring, 2020)。この筋は迷走神経(nervus vagus)の咽頭枝を介して支配され、嚥下運動における重要な役割を果たします(Agur and Dalley, 2021)。
組織学的には、口蓋咽頭弓の表面は非角化重層扁平上皮(non-keratinized stratified squamous epithelium)で覆われており、口腔粘膜の一部として機能します(Ross and Pawlina, 2019)。上皮下には固有層(lamina propria)が存在し、弾性線維に富む結合組織で構成されています(Gartner and Hiatt, 2020)。
固有層の深層には口蓋咽頭筋の筋線維束が走行しており、これは横紋筋(striated muscle)で構成されています(Young et al., 2014)。筋線維の間には結合組織、血管、神経線維が分布しており、筋の収縮と弛緩を調節しています(Junqueira and Carneiro, 2018)。粘膜固有層には小唾液腺(minor salivary glands)も散在し、粘膜の湿潤を保つ役割を担っています(Stevens and Lowe, 2005)。
口蓋咽頭筋は嚥下の咽頭期(pharyngeal phase)において重要な役割を果たします(Matsuo and Palmer, 2008)。嚥下時に収縮することで、咽頭を挙上させるとともに軟口蓋を引き下げることで、鼻咽腔(nasopharynx)を閉鎖し、食塊や液体の鼻腔への逆流を防ぎます(Logemann, 2018)。
また、口蓋咽頭筋の収縮は咽頭腔(pharyngeal cavity)を狭窄させ、食塊を食道入口部(esophageal inlet)に向けて推進する力を生み出します(Dodds et al., 1990)。この機能は上咽頭収縮筋(musculus constrictor pharyngis superior)と協調して働き、効率的な嚥下運動を可能にします(Palmer et al., 1992)。
口蓋咽頭弓への血液供給は主に上行口蓋動脈(arteria palatina ascendens、顔面動脈の枝)、下行口蓋動脈(arteria palatina descendens、上顎動脈の枝)、および咽頭上行動脈(arteria pharyngea ascendens)から行われます(Standring, 2020)。静脈還流は翼突筋静脈叢(plexus pterygoideus)および咽頭静脈叢(plexus venosus pharyngeus)を経由して内頸静脈(vena jugularis interna)に流入します(Drake et al., 2020)。
運動神経支配は迷走神経の咽頭枝(ramus pharyngeus nervi vagi)を介して咽頭神経叢(plexus pharyngeus)から口蓋咽頭筋に分布します(Moore et al., 2018)。感覚神経支配は主に舌咽神経(nervus glossopharyngeus)の咽頭枝によって行われ、嚥下反射の求心路として機能します(Agur and Dalley, 2021)。
口蓋咽頭弓は耳鼻咽喉科的診察において重要な解剖学的指標となります(Bailey et al., 2020)。急性扁桃炎(tonsillitis acuta)や扁桃周囲膿瘍(peritonsillar abscess)では、口蓋咽頭弓の発赤、腫脹、前方への偏位が観察され、診断の重要な所見となります(Flint et al., 2021)。特に扁桃周囲膿瘍では、口蓋咽頭弓の著明な腫脹により口蓋垂(uvula)が対側に偏位する特徴的な所見が認められます(Galioto, 2017)。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome: OSAS)の外科的治療として、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(uvulopalatopharyngoplasty: UPPP)が行われますが、この手術では口蓋咽頭弓の一部が切除または再配置されます(Friedman et al., 2022)。手術の目的は咽頭腔を拡大し、睡眠時の気道閉塞を軽減することですが、術後の嚥下障害や開放性鼻声(rhinolalia aperta)などの合併症に注意が必要です(Kezirian et al., 2020)。
嚥下障害(dysphagia)の評価において、口蓋咽頭弓の動きは嚥下造影検査(videofluoroscopic swallowing study: VFSS)や嚥下内視鏡検査(fiberoptic endoscopic evaluation of swallowing: FEES)で観察され、軟口蓋の挙上不全や咽頭収縮不全の診断に役立ちます(Logemann, 2018)。脳血管障害後の嚥下障害では、口蓋咽頭筋の麻痺により鼻咽腔閉鎖不全が生じ、誤嚥のリスクが高まります(Martino et al., 2005)。
また、口蓋裂(cleft palate)の患者では、口蓋咽頭弓の解剖学的異常が存在し、口蓋形成術(palatoplasty)による外科的修復が必要となります(Losee and Kirschner, 2015)。術後の構音機能や嚥下機能の評価には、口蓋咽頭弓の形態と機能の詳細な観察が不可欠です(Kummer, 2014)。