


三角ヒダ(plica triangularis)は、口蓋扁桃の前方に位置する三角形の粘膜ヒダで、口蓋舌弓(前口蓋弓、palatoglossal arch)から生じる構造です(Standring, 2020)。解剖学的には、口蓋弓と扁桃窩(tonsillar fossa)の間に形成される粘膜襞であり、その三角形状から命名されています(Gray et al., 2021)。この構造は口蓋扁桃前部の粘膜が襞状に隆起したもので、扁桃上窩(supratonsillar fossa)の一部を形成することもあります(Netter, 2019)。個体差が大きく、発達の程度は人によって異なり、顕著な場合には扁桃の前上部を部分的に覆い隠すこともあります(Johnson and Rosen, 2022)。
発生学的には、三角ヒダは第二鰓弓(second pharyngeal arch)由来の組織から形成されます(Moore et al., 2019)。口腔咽頭領域の粘膜構造は胎生期6〜8週頃に鰓弓の分化と共に形成され始め、扁桃組織の発達に伴って三角ヒダも形成されます(Sadler, 2019)。個体によって発達度が大きく異なり、一部の人では顕著に発達して口蓋扁桃の一部を覆うこともあれば、ほとんど認識できない程度のものもあります(Larsen, 2020)。この変異は臨床的に重要で、扁桃摘出術の際の視野や操作に影響を与えることがあります(Flint et al., 2021)。
組織学的には、三角ヒダは重層扁平上皮(stratified squamous epithelium)で覆われており、これは口腔咽頭粘膜の典型的な上皮構造です(Mescher, 2018)。上皮下層には結合組織(connective tissue)が存在し、さらにその深部にはリンパ組織が分布しています(Ross and Pawlina, 2020)。特に、リンパ小節(lymphoid follicles)を含むことがあり、その場合は口蓋扁桃の延長部として免疫学的機能を持つと考えられています(Kierszenbaum and Tres, 2019)。この部位のリンパ組織は、ワルダイエル咽頭輪(Waldeyer's ring)の一部として、上気道の免疫防御機構に寄与している可能性があります(Abbas et al., 2018)。血管供給は口蓋扁桃と同様に、主に顔面動脈の扁桃枝および上行咽頭動脈から受けています(Drake et al., 2020)。
臨床的には、三角ヒダは急性扁桃炎や慢性扁桃炎の際に炎症が波及して腫脹することがあり、咽頭痛や嚥下困難の原因となることがあります(Pelton and Leibovitz, 2021)。また、扁桃周囲膿瘍(peritonsillar abscess)の形成時には、この部位も炎症性変化を示すことが報告されています(Johnson and Rosen, 2022)。扁桃摘出術(tonsillectomy)の際には、三角ヒダの処理が手術の完全性に影響を及ぼすため、外科医はその存在と形態的変異を十分に認識しておく必要があります(Bailey et al., 2021)。特に、発達した三角ヒダは扁桃上極の視野を妨げることがあり、残存扁桃組織のリスクを高める可能性があります(Windfuhr et al., 2019)。稀ではありますが、この部位に炎症性偽腫瘍、乳頭腫、扁平上皮癌などの良性・悪性腫瘍が発生することも報告されており、持続する腫脹や潰瘍形成が認められる場合には生検が必要です(Flint et al., 2021; Cummings et al., 2020)。