口蓋舌弓 Arcus palatoglossus

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J0650 (上顎の永久歯および口蓋の粘膜、下方からの図)

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J0659 (舌:上方からの図)

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J0660 (舌筋:右側からの図)

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J0672 (口腔:前方からの図)

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J0674 (咽頭とその周囲の右半分:左側からの図)

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J0675 (右の口蓋扁桃、左と発達度が異なります)

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J0676 (右の口蓋扁桃、左と発達度が異なります)

解剖学的構造

口蓋舌弓(arcus palatoglossus)は、口蓋扁桃窩の前方に位置し、軟口蓋から舌側縁に向かって下降する粘膜ヒダ状の構造です(Standring, 2020)。この構造は口峡前ヒダ(anterior pillar of fauces)または舌口蓋弓(glossopalatine arch)とも呼ばれ、軟口蓋の腱膜と口蓋舌筋(musculus palatoglossus)を被覆する粘膜から構成されています(Drake et al., 2019)。

口蓋舌筋は軟口蓋の口蓋腱膜から起始し、舌の側縁に向かって下方に走行します(Moore et al., 2018)。この筋は迷走神経の咽頭神経叢によって支配され(臨床的には副神経も関与)、収縮することで口峡を狭めます(Netter, 2018)。組織学的には、口蓋舌弓の表面は重層扁平上皮で覆われており、下層には豊富な血管網とリンパ組織が存在します(Ross and Pawlina, 2020)。血液供給は主に上行口蓋動脈(外頸動脈系)と下行口蓋動脈(顎動脈系)から行われます(Standring, 2020)。

機能的意義

口蓋舌弓は口蓋咽頭弓(arcus palatopharyngeus、口峡後ヒダ)とともに口峡(isthmus faucium)を形成し、口腔と中咽頭を区切る解剖学的境界として機能します(Drake et al., 2019)。両側の口蓋舌弓の間の空間は口峡の前方開口部を構成し、この領域には口蓋扁桃が位置します(Sinnatamby, 2011)。

嚥下の口腔相において、口蓋舌筋の収縮により口峡が狭小化し、食塊が口腔から咽頭へ移動する際の制御機構として重要な役割を果たします(Matsuo and Palmer, 2008)。また、口蓋舌弓は舌根部を前上方に挙上させることで、嚥下反射の開始に寄与します(Logemann, 1998)。さらに、発語時には軟口蓋の運動と協調して、鼻咽腔閉鎖機構の一部として機能することが報告されています(Kummer, 2014)。

臨床的意義

口蓋舌弓は上気道感染症、特に扁桃炎や咽頭炎の際に発赤・腫脹を呈し、診察時の重要な観察点となります(Netter, 2018)。急性扁桃炎では両側の口蓋舌弓が著明に発赤し、扁桃周囲膿瘍では患側の口蓋舌弓が前方に突出することが特徴的です(Galioto, 2017)。

嚥下機能評価において、口蓋舌弓の可動性は口腔相から咽頭相への移行を評価する重要な指標となります(Clavé et al., 2006)。脳血管障害後の嚥下障害患者では、口蓋舌弓の運動が障害されることが多く、これが誤嚥のリスク因子となります(Martino et al., 2005)。

睡眠時無呼吸症候群(OSA)との関連では、口蓋舌弓の形態学的特徴が上気道の狭窄に影響を与えることが知られています(Schwab et al., 2003)。口蓋垂口蓋咽頭形成術(UPPP)などの外科的治療を計画する際には、口蓋舌弓の解剖学的評価が不可欠です(Caples et al., 2010)。また、Mallampati分類やFriedman分類などの気道評価スコアでは、口蓋舌弓の可視性が重要な評価項目となっています(Friedman et al., 1999)。

参考文献