耳下腺

耳下腺はヒト最大の唾液腺で、左右の耳の前下方に位置しています。下顎角から上部は頬骨弓まで、後方は胸鎖乳突筋まで、内側は側頭下窩の下顎骨下顎枝まで広がっています。上顎第2大臼歯の頬粘膜に耳下腺管が開口しています。終末部(線房)は純漿液性の分泌物からなっていますが、これは他の大唾液腺とは大きく異なります。介在部および線条部もよく発達しています。腺の実質内には多数の脂肪細胞が散在しており、他の唾液腺と容易に区別できる大きな特徴です。""Parotis""という語は、「para(傍)」と「otis(耳)」の複合語で、「耳の傍らにあるもの」という意味です。この名称は17世紀のフランスの解剖学者リオランによるものです。

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J0610 (顔の表在静脈:右側からの図)

日本人のからだ(島田和幸 2000)によると

大唾液腺の中で最大の腺は、浅部が耳介の前を占める大部分で、深部は下顎枝後縁からその後方までの部分です。形態には個体差が大きいと多くの報告で指摘されています (石島,1958 a; 塚本,1959; 藤ら,1984; Toh et al., 1993)。通常、腺は不規則な三角形または四角形を示し、周囲は厚い筋膜(耳下腺筋膜)に包まれています。この筋膜は耳下腺内に深く入り込み、腺を小葉に分けています。

位置については、上縁が頬骨、下縁が下顎骨の下縁、前縁が咬筋の一部を覆い、後方は乳様突起、胸鎖乳突筋、茎状突起に起始する筋に接触するとされています。

石島(1958 a)は耳下腺とその周囲の組織の位置関係について調査しており、後方部で胸鎖乳突筋と接するものは57.0%、筋上に延長するものは39.2%、接しないものは3.8%であるとしています。前縁部と咬筋との関係では、前縁部上半分では咬筋を覆う比率は1/3が最も多く17.3%、次に1/4が16.0%、1/2が14.7%であるとしています。前縁部下半部では1/5が最も多く41.3%、次に1/4が26.3%、1/5以下が21.3%であるとしています。

耳下腺前縁は耳下腺管に沿って前方に延長することが報告されており、これは小川(1918)によって前突起と定義されています。この前突起の出現率について、石島(1958 a)は日本人152例を調査し、48.7%に見られたと報告しています。また、耳下腺本体とは別に耳下腺管の周辺に存在する小型の腺群、つまり小川(1918)によって定義された副耳下腺が存在することもあります。

副耳下腺の出現率については研究者によって大きく異なり、藤ら(1984)は68.8%、石島(1958 a)は25.4%、小川(1918)は36.6%、青・岡田(1956)は35.2%、塚本(1959)は胎児を調査し、20-30%であると報告しています。

耳下腺管は腺の前上部から頬骨弓に平行して走り、咬筋の外表面を前に向かって進み、咬筋前縁で内方に曲がって頬筋と頬粘膜を貫き、上顎第2大臼歯に向かう頬粘膜の耳下腺乳頭に開口します。耳下腺管の走行については、石島(1958 b)は耳下腺の上1/3から出るものが50.0%で最も多く、次に上1/3と中1/3の間が31.6%、中1/3が13.2%であると報告しています。

また、耳下腺乳頭の形状や位置については、安藤(1954)が成人(20代)と小児(5-9歳)を対象に詳細な報告を行っています。乳頭の形については、成人と小児の両方で丘状(成人、64.0%;小児、73.2%)が最も多いとされています。また、乳頭と歯列の位置関係については、成人では上顎第1大臼歯と第2大臼歯の間に存在するものが最も多く(56.8%)、小児では上顎第2乳臼歯と第1大臼歯の間に存在するものが最も多い(35.1%)。次に第1大臼歯の中央部(21.2%)であるとされています。乳頭の大きさについては、成人では5mm以上のものが最も多く(63.0%)、小児では3mm以下のものが最も多いと報告されています。主導管(耳下腺管)の開口位置については(安藤、1954)、中央部に位置するものが57.4%、次に下位に位置するものが23.0%であるとされています。