短母指外転筋

短母指外転筋は、手の母指球筋の一つで、以下のような特徴があります:

短母指外転筋は、短母指屈筋、母指対立筋、母指内転筋とともに母指球筋を構成し、母指の精密な動きを可能にする重要な役割を果たしています

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J0205 (右の手骨:筋の起こる所と着く所を示す手掌側からの図)

日本人のからだ(本間敏彦 2000)によると

母指球筋

母指を動かす短母指外転筋、短母指屈筋、母指対立筋、母指内転筋の4つの筋肉は母指球筋とまとめて呼ばれています。母指球筋の中で、最も外側に位置する短母指外転筋は他の母指球筋と容易に分離しますが、残りの3つの筋肉は互いに結合し、一つの筋肉塊となって存在します。それぞれ独立した筋肉として取り出すことは難しく、人工的に分離することになります。どの部分をどの筋肉とするかは、どこに停止するかが重要視されます。母指の中手骨につく部分を母指対立筋、母指基節骨の橈側に停止するものを短母指外転筋と短母指屈筋、母指基節骨の尺側に停止するものを母指内転筋としています。短母指屈筋は浅頭と深頭、母指内転筋は横頭と斜頭にさらに区分されています。しかし筋肉の命名、特に短母指屈筋浅頭、深頭をどの部分とするかについてはまだ混乱があります。本間・坂井(1994)は、歴史的な変遷を踏まえてそれらを整理しています。短母指外転筋と母指内転筋の停止の一部は支配腱膜に参加します(面高, 1964)。

母指球筋は正中神経からの反回神経と、尺骨神経深枝の終枝によって支配されます。短母指屈筋の浅頭と深頭の間を境に、橈側にある短母指外転筋、短母指屈筋浅頭、母指対立筋を正中神経が支配し、尺側にある母指内転筋、短母指屈筋深頭を尺骨神経が支配するとされています。

しかし、両神経が手掌で交通しあうことはRiche-Cannierの吻合または母指球神経ワナThenar ansa (Harness and Sekeles, 1971)として知られています。その出現頻度も70%以上と非常に高いです(Homma and Sakai, 1992; 奥野・河西,1994)。この交通しあった枝からの線維が正中神経由来なのか、尺骨神経由来なのかは、従来の解剖学的な方法による判断では難しく、したがって、両神経の分布の境を正確に決めるのは難しいです。正中神経が骨間筋にまで、あるいは尺骨神経が母指対立筋まで分布するという臨床の場で見つかる報告はこのThenar ansaを経由する可能性が高いです。また、それぞれの母指球筋は正中神経、尺骨神経、あるいは両神経の交通枝から分岐する固有の神経枝によって支配されます。この支配枝の分岐のパターンを詳しく調べると、一定の順序と様式を持って分岐していることが明らかになりました(図46)(Homma and Sakai, 1992)。

正中神経から母指球筋へ向かう枝として反回枝以外に、第1指あるいは第2指への総掌側指神経から分岐する枝が90%以上の高頻度で見られます(Homma and Sakai, 1992; 奥野・河西,1994)。