皺眉筋 Musculus corrugator supercilii
解剖学的特徴
皺眉筋は表情筋群に属する小さな深部筋で、以下の解剖学的特徴を持ちます(Gray, 2020; Standring, 2021):
- 起始部:前頭骨の眉間部(鼻骨上部付近)の骨膜から起始します。
- 走行:眉頭部から外側上方に向かって斜走します。
- 後頭前頭筋の前頭腹の筋線維束内側縁部を貫通して表層に達します。
- 停止部:眉毛の中央から外側部の皮膚および真皮に停止します。
- 神経支配:顔面神経(第VII脳神経)の颪骨枝が支配しています。
機能
- 眉毛を内側かつ下方に引き寄せ、眉間に垂直な皺を形成します(Tamura et al., 2018)。
- 眉頭部の皮膚を鼻根部方向に牽引します。
- 「思考」「集中」「心配」「不快」「痛み」などの表情を表現する際に作用します(Ekman and Friesen, 2003)。
- 眩しい光から目を保護する際にも収縮します(防御反応)。
臨床的意義
皺眉筋は臨床的に重要な以下の特徴があります(Neligan, 2018):
- 顔面神経麻痺患者では皺眉筋の機能低下により、眉間の皺を作ることができなくなります(臨床検査上の重要所見)。
- 美容医療では、ボツリヌス毒素(ボトックス®)注射の一般的な標的となり、眉間の「怒り線」や「11の字ジワ」の改善に用いられます(Carruthers et al., 2017)。
- 緊張性頭痛や片頭痛患者では、しばしば皺眉筋の慢性的な過緊張が認められます(Blumenfeld et al., 2010)。
- 長時間のVDT作業による眼精疲労では、無意識的な皺眉筋の収縮が起こることがあります。
この筋肉は表情の微妙な変化に関与し、コミュニケーションや感情表現において重要な役割を果たしています。進化的には捕食者から身を守るための警戒表情の形成にも関与していたと考えられています(Schmidt and Cohn, 2001)。