橈骨輪状靱帯 Ligamentum anulare radii

J0314 (右の肘関節:手の回外位に伸ばされ、前方からの図)

J0316 (右の肘関節は直角に曲がり、橈側からの図)

J0319 (右前腕の骨と靱帯:手の回旋位の掌側からの図)
解剖学的構造
橈骨輪状靱帯は、上橈尺関節を構成する重要な靱帯構造です(Morrey & An, 1983)。以下の詳細な解剖学的特徴を持ちます:
- 付着部位:尺骨の橈骨切痏(incisura radialis ulnae)の前縁から後縁にかけて付着し、橈骨頭(caput radii)の関節環状面(circumferentia articularis)を約4/5周にわたって輪状に取り囲んでいます(Spinner & Kaplan, 1970)。
- 形態:幅約5mm、厚さ約1-2mmの強靭な線維性結合組織からなる帯状構造で、橈骨頭を取り囲む際に漏斗状の形状を呈します。下方に向かってやや拡大する形態をとります(Tubbs et al., 2006)。
- 組織学的構造:靱帯の内面(関節腔側)は硝子軟骨で覆われており、橈骨頭の関節軟骨と連続して上橈尺関節の関節窩の一部を形成します(Benjamin et al., 2002)。この軟骨層により、前腕の回内・回外運動時に橈骨頭が滑らかに回転できます。
- 関節包との関係:外面は肘関節の関節包と密に癒合しており、特に橈骨側副靱帯(ligamentum collaterale radiale)および関節包の前面・外側部の線維と強固に結合しています(Martin, 1958)。
機能的役割
- 安定性の維持:橈骨頭を尺骨の橈骨切痕に対して固定し、上橈尺関節の安定性を保ちながら、前腕の回内・回外運動を可能にします(Morrey & An, 1983)。
- 回転運動の制御:橈骨頭が前腕の長軸を中心に回転する際、輪状靱帯は可動性のある「襟」として機能し、約180度の回旋運動を許容します(Kapandji, 1982)。
- 荷重の分散:上肢からの軸圧荷重の一部を橈骨頭を介して受け止め、尺骨へ伝達する役割を果たします(Hotchkiss & An, 1993)。
臨床的意義
- 小児の肘内障(nursemaid's elbow):2-5歳の小児に好発する疾患で、橈骨頭が輪状靱帯から部分的に脱臼した状態です(Salter & Zaltz, 1971)。手を引っ張られた際に発生しやすく、橈骨頭が輪状靱帯の下方に滑り込むことで生じます。小児では靱帯が比較的弛緩しており、橈骨頭も未発達で円柱状であるため発生しやすくなります。
- 橈骨頭脱臼:外傷により橈骨頭が輪状靱帯から完全に脱臼することがあります。Monteggia骨折(尺骨骨幹部骨折に橈骨頭脱臼を合併)では、輪状靱帯の損傷を伴うことが多く、整復後の安定性に影響します(Bado, 1967)。
- 橈骨頭骨折:肘関節の外傷で頻度の高い骨折です(Mason, 1954)。輪状靱帯が骨折部位に介在すると整復障害の原因となり、時に靱帯の修復や再建が必要となります。
- 変形性関節症:長期的な機械的ストレスにより輪状靱帯の線維化や肥厚が生じ、前腕の回旋運動制限や疼痛の原因となることがあります(Linscheid & O'Driscoll, 2006)。
- 関節リウマチ:炎症により輪状靱帯が弛緩し、橈骨頭の不安定性や脱臼を引き起こすことがあります。進行例では橈骨頭切除術が検討されます(Ferlic et al., 1977)。
- 画像診断:MRIでは輪状靱帯の損傷、肥厚、滑膜炎を評価できます(Kijowski & De Smet, 2005)。超音波検査は小児の肘内障の診断に有用で、輪状靱帯と橈骨頭の位置関係を動的に観察できます(Kosuwon et al., 1993)。
橈骨輪状靱帯は、前腕の回旋運動における重要な解剖学的構造であり、その損傷や機能不全は上肢の機能障害に直結するため、臨床的に重要な意義を持ちます。