黄色靭帯 Ligamenta flava
黄色靭帯は、脊柱の構造と機能において重要な役割を担う特殊な靭帯です。以下に解剖学的特徴と臨床的意義を詳述します(Bogduk and Twomey, 2005):

J0290 (腰椎の一部の正中断、右切断半分:左方からの図)

J0291 (腰椎弓と黄色靭帯:前方からの図)

J0297 (後頭部、環椎、軸椎とその靱帯:後方からの図)

J0302 (後頭骨と最初から三番目までの頚椎を含む正中矢状断とそのリング状の組織:左方からの若干図式化された図)
解剖学的特徴
- 位置と付着部:隣接する椎骨の椎弓板間に存在し、上位椎骨の椎弓板下縁前面から下位椎骨の椎弓板上縁後面に付着します。脊柱管の後壁の一部を形成しています(Gray et al., 2020)。
- 分布:第2頚椎(軸椎)から第1仙椎までの椎骨間に存在し、軸椎より上方および仙椎間には存在しません(Standring, 2021)。
- 組織学的特徴:約80%が弾性線維、20%が膠原線維で構成され、この高い弾性線維含有率のため黄色を呈します。これは人体の靭帯の中でも特異的な特徴です(Yong-Hing et al., 1976)。
- 生体力学的特性:弾性線維の豊富さにより高い伸縮性を持ち、脊柱の屈曲時には伸張し、伸展時には収縮して、常に適度な緊張状態を維持します。この特性により、脊柱の動きがスムーズになります(Panjabi and White, 2001)。
- 寸法:部位によって厚さが異なり、腰椎部では最も厚く(約5-6mm)、頚椎部では最も薄くなっています(約2-3mm)(Sairyo et al., 2005)。
臨床的意義
1. 腰部脊柱管狭窄症(Lumbar Spinal Stenosis)
黄色靭帯の肥厚は、腰部脊柱管狭窄症の主要な原因の一つです(Sairyo et al., 2007)。
- 病態生理:加齢に伴い、黄色靭帯は弾性線維の減少と膠原線維の増加により肥厚・硬化します。炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α)の蓄積や線維化が進行し、靭帯の厚さが正常の2-3倍(10mm以上)に達することがあります(Kosaka et al., 2007)。
- 臨床症状:神経性間欠跛行(歩行時の下肢痛・しびれ、休息により改善)、腰痛、下肢筋力低下、膀胱直腸障害(重症例)が特徴的です(Katz and Harris, 2008)。
- 診断:MRI T2強調画像で黄色靭帯の肥厚が低信号として描出されます。CTでは靭帯の石灰化や骨化を評価できます。脊柱管前後径が10mm以下の場合、臨床的に有意な狭窄と判断されます(Schizas et al., 2010)。
- 保存的治療:NSAIDs、神経ブロック療法(硬膜外ブロック、神経根ブロック)、理学療法(体幹筋強化、姿勢指導)が第一選択となります(Watters et al., 2008)。
- 外科的治療:保存的治療に抵抗性の場合、椎弓切除術による黄色靭帯切除が行われます。内視鏡下手術や顕微鏡下手術により、低侵襲化が進んでいます(Rahman et al., 2008)。
2. 頚部脊髄症(Cervical Myelopathy)
頚椎レベルでの黄色靭帯肥厚は、頚部脊髄症の原因となります(Fehlings et al., 2013)。
- 臨床症状:上肢のしびれ・巧緻運動障害(ボタンかけ困難、箸使用困難)、下肢の痙性歩行、膀胱直腸障害が進行性に出現します。