棘間靭帯 Ligamenta interspinalia
棘間靱帯は、脊柱を構成する重要な靱帯構造であり、解剖学的特徴と臨床的意義は以下の通りです:

J0290 (腰椎の一部の正中断、右切断半分:左方からの図)

J0295 (頭蓋骨と頚椎の靭帯:右側からの図)

J0326 (右側の骨盤の靱帯:後方からの図)

J0459 (短い背筋(第3層):背面図)
解剖学的特徴
- 解剖学的位置:隣接する脊椎の棘突起間に位置し、頭側から尾側に連続する薄い膜状の靱帯構造です (Bogduk and Twomey, 2005)。
- 構造的特徴:主にコラーゲン線維からなり、後縦靱帯や黄色靱帯とともに脊柱後方の支持組織を形成します (Standring, 2020)。線維束は棘突起間を斜めに走行し、弾性を持ちます。
- 地域差:頚部では比較的薄く弱い構造ですが、腰部に向かうにつれて厚みと強度が増します。特にL4-L5、L5-S1レベルでは最も発達しています (Neumann, 2017)。
機能的役割
- 機能的役割:
- 脊柱の過度の屈曲を制限し、脊柱安定性の維持に貢献します (Panjabi, 2003)。
- 椎間板への過度の圧力を軽減する緩衝機能を持ちます (McGill, 2015)。
- 棘突起間の空間を保持し、脊柱後方支持機構の一部として機能します (Willard, 2012)。
臨床的意義
腰痛症候群と棘間靱帯損傷
棘間靱帯の損傷は、急性および慢性腰痛の重要な原因の一つです。特に腰椎の過度な屈曲動作や反復的な負荷により、靱帯の微小断裂や炎症が生じることがあります (Maigne and Maigne, 2018)。
- 病態メカニズム:
- 急性損傷:重量物の持ち上げや急激な前屈動作により、棘間靱帯に過度の張力が加わり、部分断裂や完全断裂が生じる可能性があります (McGill, 2015)。
- 慢性的な過負荷:長時間の座位姿勢や反復的な屈曲動作により、棘間靱帯に微小損傷が蓄積し、慢性的な炎症と疼痛を引き起こします (Panjabi, 2003)。
- 神経支配:棘間靱帯には脊髄神経後枝の内側枝から痛覚線維が分布しており、損傷時には局所的な疼痛と圧痛が生じます (Willard, 2012)。
- 臨床症状:
- 腰部正中部の限局的な圧痛
- 前屈時の疼痛増強
- 棘突起間の触診による疼痛誘発
- 長時間の座位後の腰部こわばり感
棘間靱帯炎(Baastrup病)
Baastrup病(キッシングスパイン症候群)は、脊柱の過伸展により隣接する棘突起同士が接触・衝突し、棘間靱帯に炎症が生じる病態です (Filippiadis et al., 2015)。
- 病因と危険因子:
- 脊柱の過前彎(腰椎前彎の増強)
- 変性性脊柱管狭窄症に伴う脊柱後方への負荷増加
- 加齢に伴う椎間板高の減少と棘突起間距離の短縮
- 長期的な過伸展姿勢の維持
- 病理学的変化:
- 棘突起間の接触部位における骨硬化と嚢胞形成
- 棘間靱帯の線維化と肥厚
- 滑液包の形成(偽関節様変化)
- 周囲軟部組織の浮腫と炎症
- 画像診断所見:
- 単純X線:棘突起の接触、骨硬化、不整像
- MRI:T2強調像で棘間靱帯の高信号変化、周囲の浮腫、滑液包の存在
- CT:棘突起の骨硬化と嚢胞形成の明瞭な描出
- 治療アプローチ:
- 保存的治療:NSAIDs投与、理学療法、姿勢矯正、コアマッスル強化訓練
- 局所注射療法:ステロイドと局所麻酔薬の棘間靱帯周囲注射
- 侵襲的治療:難治例に対する棘突起切除術や棘間スペーサー留置術