転子窩 Fossa trochanterica
転子窩は、大腿骨近位部の後内側面に位置する重要な解剖学的構造であり、股関節周辺の深層筋群の付着部として機能します(Gray, 2020; Standring, 2016)。

J0229 (右の大腿骨:後方からの図)

J0230 (右大腿骨、内側からの図)

J0379 (右の股関節部:大腿は伸ばされて少し内側に巻かれ、腹背方向からのX線像)
解剖学的特徴
位置と形態:
- 大腿骨を後方から観察すると、大転子の内側面(medial surface)と大腿骨頚(femoral neck)の移行部に位置する深い窩(fossa)として認められます(Standring, 2016)。
- 転子窩は円形または楕円形の陥凹を呈し、その深さは個体差がありますが、通常5-10mm程度です(Moore et al., 2018)。
- 大転子尖端(apex of greater trochanter)のやや下方かつ内側に位置し、転子間稜(intertrochanteric crest)の近傍に存在します(Netter, 2018)。
筋付着部としての機能:
- **内閉鎖筋(Obturator internus):**骨盤内面から起始し、小坐骨孔を通過して転子窩に停止します。股関節の外旋と外転に作用します(Standring, 2016)。
- **外閉鎖筋(Obturator externus):**閉鎖孔外面から起始し、大腿骨頚の後面を横切って転子窩に停止します。主に股関節の外旋に作用します(Moore et al., 2018)。
- **上双子筋(Gemellus superior):**坐骨棘から起始し、内閉鎖筋腱と合流して転子窩に停止します(Gray, 2020)。
- **下双子筋(Gemellus inferior):**坐骨結節から起始し、内閉鎖筋腱と合流して転子窩に停止します(Gray, 2020)。
臨床的意義
股関節疾患との関連:
- **大腿骨頚部骨折:**転子窩周辺は大腿骨頚部骨折の好発部位であり、特に高齢者における転倒時に骨折が生じやすい領域です。転子窩の解剖学的位置は骨折線の評価や手術計画において重要です(Parker & Gurusamy, 2006)。
- **股関節インピンジメント:**転子窩の形態異常や深さの変化は、大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI: Femoroacetabular Impingement)の評価において考慮されることがあります(Ganz et al., 2003)。
外旋筋群の機能障害:
- 転子窩に付着する筋群は、股関節の深層外旋筋群(deep external rotators)として重要な機能を担っており、これらの筋の損傷や機能不全は股関節の不安定性や歩行異常の原因となります(Lewis et al., 2007)。
- 人工股関節全置換術(THA: Total Hip Arthroplasty)において、後方アプローチでは外旋筋群を切離する必要があり、転子窩周辺の解剖学的知識が術後の機能回復に影響します(Kwon et al., 2006)。