恥骨結合面 Facies symphysialis
恥骨結合面は、骨盤の前方部分を構成する重要な解剖学的構造です。以下にその詳細と臨床的意義について記述します(Standring, 2015; White et al., 2011):

J0213 (右の寛骨:内側からの図)

J0333 (右の股関節:内側からの図)

J0492 (右側の骨盤の筋:内側からの図)
解剖学的特徴
- 位置と構造:
- 恥骨体の前内側端に位置し、対側の恥骨と直接接合して恥骨結合を形成します(Moore et al., 2018)。
- 楕円形または長卵円形の軟骨で覆われた面で、表面には特徴的な隆起と溝があります。
- 厚さ約3〜5mmの線維軟骨円板(discus interpubicus)を介して対側と結合します(Becker et al., 2010)。
- 組織学的構造:
- 結合面は硝子軟骨で覆われており、中央部には線維軟骨性の円板があります(Standring, 2015)。
- 上下には強靭な恥骨上靭帯(lig. pubicum superius)と恥骨弓下靭帯(lig. arcuatum pubis)によって補強されています。
- 年齢に伴う形態変化:
- 思春期(15〜17歳):表面が波状の隆起を示し、縁は明瞭な稜を形成
- 17〜19歳:数本の平行な横走隆線が明瞭に観察され、辺縁は規則的
- 20〜25歳:隆線の消失が始まり、上縁から下方へと平坦化が進行
- 25〜27歳:隆線がほぼ消失し、結合面全体が平坦化
- 30〜35歳:縁の硬化と後縁の形成が進む
- 35〜40歳:結合面の輪郭が完成し、辺縁が明確になる(Todd, 1920)
- 40歳以上:腹側辺縁の侵食が始まり、表面が粗造化、不規則な侵食像を呈する
臨床的意義
- 法医学的応用:
- T.W. Toddの10段階評価システム(Todd System)は、今日でも法医学的年齢推定の基礎となっています(Todd, 1920)。
- Suchey-Brooksの6段階システムなど、より精度の高い現代的手法も開発されています(Brooks and Suchey, 1990)。
- 産科学的意義:
- 妊娠後期には、リラキシンホルモンの作用により恥骨結合の線維軟骨が緩み、可動性が増加します(約4〜8mm)(Bjorklund et al., 2000)。
- 分娩時には、この生理的な弛緩が骨盤出口の拡大を可能にし、児頭の通過を容易にします。
- 病態生理:
- 恥骨結合炎(恥骨結合部痛症候群):妊娠後の女性に多く、恥骨結合の過度な弛緩や不安定性により前方骨盤部に疼痛が生じます(Rost et al., 2004)。
- 恥骨結合離開:外傷や分娩による過度な応力で恥骨結合の幅が10mm以上に拡大した状態。歩行困難を伴います(Keel et al., 2011)。
- 骨盤輪骨折:高エネルギー外傷で恥骨結合部を含む骨盤輪の複数箇所に骨折が生じる重篤な外傷(Tile, 1988)。
- 画像診断:
- X線検査:通常、恥骨結合の間隔は4〜5mm程度。10mm以上の開大は病的と考えられます(Burgess et al., 1990)。
- MRI検査:軟骨や周囲軟部組織の評価に有用で、恥骨結合炎や離開の詳細な評価が可能です(Puhakka et al., 2004)。
恥骨結合面は、骨盤の安定性維持、分娩時の適応、そして個人識別のための年齢推定など、多面的な機能と意義を持つ解剖学的構造です。その形態学的変化の理解は、法医学、産科学、整形外科学において重要な意味を持ちます(Cunningham et al., 2014; Mays, 2015)。
参考文献
書籍
- Cunningham, C., Scheuer, L. and Black, S. (2014) Developmental Juvenile Osteology. — 恥骨結合面の発達変化について詳細な情報を提供。
- Mays, S. (2015) The Archaeology of Human Bones. — 骨の考古学的研究における恥骨結合の年齢推定法について記述。
- Moore, K.L., Dalley, A.F. and Agur, A.M.R. (2018) Clinically Oriented Anatomy, 8th Edition. — 臨床的視点から恥骨結合の解剖学を解説した教科書。
- Standring, S. (2015) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice, 41st Edition. — 解剖学の標準的な教科書で、恥骨結合の詳細な解剖学的記述を含む。
- White, T.D., Black, M.T. and Folkens, P.A. (2011) Human Osteology, 3rd Edition. — 骨学の包括的テキストで、恥骨結合面の年齢変化について詳細な記述がある。