坐骨 Os ischii
坐骨は、寛骨(Os coxae)を構成する三つの骨要素(腸骨、恥骨、坐骨)の一つであり、骨盤の後下部を形成する重要な骨です。解剖学的および臨床的に以下の詳細な特徴を持ちます(Gray and Carter, 2016; Standring, 2020)。

J0212 (右の寛骨:外側からの図)

J0213 (右の寛骨:内側からの図)

J0214 (右の寛骨:前下からの図)

J0277 (約8ヶ月胎児の右寛骨:外側からの図)

J0278 (10歳の女の子の右の股関節:前下方からの図)

J0489 (右側の鼡径部の筋を鼡径靱帯の直下で切断した図)
解剖学的構造
1. 坐骨体(Corpus ossis ischii)
- 寛骨臼(Acetabulum)の後下部約2/5を形成し、関節窩の重要な構成要素となっています(Schünke et al., 2019)。
- 坐骨体は寛骨臼から下方に向かって肥厚した三角柱状の形態を呈し、強固な構造を形成します。
- 外側面は比較的平滑で、内側面は骨盤腔に面しています。
- 坐骨体の下端は坐骨結節へと移行し、体重支持機構の基盤となります(Agur and Dalley, 2021)。
2. 坐骨結節(Tuber ischiadicum)
- 坐骨体の下端に位置する隆起した大きな粗面構造で、座位時の体重を直接支持する解剖学的基盤です(Moore et al., 2018)。
- 結節は上下に長く、後外側に凸面を向けた楕円形の隆起として認識されます。
- 筋付着部として極めて重要で、以下の筋群の起始部となります:
- 大腿二頭筋長頭(Caput longum musculi bicipitis femoris)
- 半腱様筋(M. semitendinosus)
- 半膜様筋(M. semimembranosus)
- これらはハムストリングス筋群を構成し、股関節伸展と膝関節屈曲に重要な役割を果たします。
- 坐骨結節の内側面には仙結節靱帯(Lig. sacrotuberale)が付着し、骨盤底の安定性に寄与します。
- 結節上には坐骨滑液包(Bursa ischiadica)が存在し、座位時の圧力を緩和します(Standring, 2020)。
3. 坐骨枝(Ramus ossis ischii)
- 坐骨体から前内側上方へ伸びる細い扁平な柱状の骨部分です。
- 恥骨の下枝(Ramus inferior ossis pubis)と結合して恥骨坐骨枝(Ramus ischiopubicus)を形成し、閉鎖孔(Foramen obturatum)の下縁を構成します(Schünke et al., 2019)。
- 坐骨枝の外側面には内閉鎖筋(M. obturatorius internus)および外閉鎖筋(M. obturatorius externus)の一部が付着します。
- 内側面は骨盤底筋群の付着部となり、骨盤底の支持機構に関与します。