手根骨 Ossa carpi
手根骨は手首(手関節)を構成する8個の短骨の総称で、近位列(橈骨・尺骨に近い側)と遠位列(中手骨に近い側)の2列に配列されています(Moore et al., 2018)。各骨は不規則な立方体形状を呈し、複数の関節面を持ち、強固な靱帯系によって連結されることで、手関節の複雑な運動と荷重伝達を可能にしています(Standring, 2020)。

J0185 (舟状骨(右手の個々の手根骨:掌側からの図))
J0186 (月状骨(右手の個々の手根骨:掌側からの図))
J0187 (三角骨(右手の個々の手根骨:掌側からの図))
J0188 (豆状骨(右手の個々の手根骨:掌側からの図))
J0189 (大菱形骨(右手の個々の手根骨:掌側からの図))
J0190 (小菱形骨(右手の個々の手根骨:掌側からの図))
J0191 (有頭骨(右手の個々の手根骨:掌側からの図))
J0192 (有鈎骨(右手の個々の手根骨:掌側からの図))

J0193 (舟状骨(手の背側からの単一の右手根骨))
J0194 (月状骨(手の背側からの単一の右手根骨))
J0195 (豆状骨(手の背側からの単一の右手根骨))
J0196 (三角骨(手の背側からの単一の右手根骨))
J0197 (大菱形骨(手の背側からの単一の右手根骨))
J0198 (小菱形骨 (手の背側からの単一の右手根骨))
J0199 (有頭骨(手の背側からの単一の右手根骨))
J0200 (有鈎骨(手の背側からの単一の右手根骨))

J0201 (右手の手根骨と隣接する骨、掌側からの横並びに引き伸ばされた図)
解剖学的構造
近位列(橈側から尺側へ):
- 舟状骨(しゅうじょうこつ、Os scaphoideum):手根骨中最大の骨で、舟形を呈します。近位面は橈骨手根関節面を形成し、遠位面は大菱形骨・小菱形骨・有頭骨と関節します(Gray et al., 2021)。結節(tuberculum ossis scaphoidei)は掌側に突出し、屈筋支帯の付着部となります。血液供給が遠位部から近位部へ向かうため、近位部骨折では無腐性壊死のリスクが高くなります(Gelberman et al., 1983)。
- 月状骨(げつじょうこつ、Os lunatum):半月形を呈し、近位列の中央に位置します。近位面は橈骨・三角線維軟骨複合体(TFCC)と関節し、遠位面は有頭骨と広く接します。手根骨の中で最も脱臼しやすい骨です(Standring, 2020)。Kienböck病(月状骨無腐性壊死)の好発部位として知られています(Lichtman et al., 1993)。
- 三角骨(さんかくこつ、Os triquetrum):錐体形を呈し、近位列の尺側に位置します。近位面はTFCCと関節し、掌側面には豆状骨が種子骨として付着します。尺側手根伸筋腱の滑走面としても機能します(Moore et al., 2018)。
- 豆状骨(とうじょうこつ、Os pisiforme):エンドウ豆大の種子骨で、尺側手根屈筋腱内に存在し、三角骨の掌側面に付着します。屈筋支帯の尺側付着部を形成し、小指球筋の起始部となります。厳密には手根骨列の一部ではなく、種子骨としての機能が主体です(Gray et al., 2021)。
遠位列(橈側から尺側へ):
- 大菱形骨(だいりょうけいこつ、Os trapezium):不規則な四角形を呈します。遠位面は第1中手骨と鞍関節(saddle joint)を形成し、母指の対立運動を可能にします(Standring, 2020)。掌側の結節は屈筋支帯の橈側付着部となり、長母指外転筋腱の滑車として機能します。変形性関節症(CM関節症)の好発部位です(Eaton & Littler, 1973)。
- 小菱形骨(しょうりょうけいこつ、Os trapezoideum):手根骨中最小の骨で、楔形を呈します。遠位面は第2中手骨底と関節し、近位面は舟状骨と接します。8つの手根骨の中で最も骨折や脱臼が少ない骨です(Moore et al., 2018)。
- 有頭骨(ゆうとうこつ、Os capitatum):手根骨中最大で、中央に位置します。球状の頭部(caput)は月状骨の凹面に嵌入し、頸部(collum)を経て体部に連続します。遠位面は主に第3中手骨、一部第2・第4中手骨と関節します。手根骨の要石(keystone)として機能し、軸性荷重の伝達において中心的役割を果たします(Gray et al., 2021)。
- 有鈎骨(ゆうこうこつ、Os hamatum):掌側に鉤状突起(hamulus ossis hamati)を持つことが特徴です。この鉤は屈筋支帯の尺側付着部を形成し、尺骨神経深枝と深掌動脈弓の通過部となるため、鉤骨折では神経血管損傷のリスクがあります(Standring, 2020)。遠位面は第4・第5中手骨と関節します。
靱帯構造と安定性
手根骨間は以下の靱帯系によって強固に連結されています(Berger, 1996):
- 掌側手根間靱帯:背側よりも強靭で、手根骨の掌側安定性に重要です。特に橈骨舟状月状骨靱帯、舟状有頭骨靱帯、三角有頭骨靱帯が重要です(Berger, 1996)。
- 背側手根間靱帯:掌側より薄弱ですが、伸展時の安定性に寄与します(Viegas et al., 1999)。
- 骨間靱帯:近位列では舟状月状骨間靱帯、月状三角骨間靱帯が重要で、これらの損傷は手根不安定症(carpal instability)を引き起こします(Garcia-Elias et al., 2006)。
手根骨全体は横手根靱帯(屈筋支帯)によって掌側から覆われ、手根管(carpal tunnel)を形成します。この管内を正中神経と9本の屈筋腱が通過します(Moore et al., 2018)。