頚切痕(胸骨の)Incisura jugularis ossis sterni
解剖学的定義と構造
頚切痕(けいせつこん)は以下の解剖学的特徴を持っています(Gray and Carter, 2008):
- 胸骨柄(manubrium sterni)の上端中央部に位置する半円形または浅いU字型の切痕です。
- 左右の鎖骨切痕(incisura clavicularis)の間に存在し、胸骨上縁の中央部を形成します(Standring, 2020)。
- 深さは個人差があり、一般的に5〜15mm程度で、幅は20〜30mm程度です(Moore et al., 2018)。
- 解剖学的位置としては、第2胸椎(T2)のレベルに相当します。
- 鎖骨間靱帯(ligamentum interclaviculare)の付着部となり、左右の胸鎖関節を連結します(Netter, 2019)。
臨床的意義
頚切痕は臨床医学において重要な指標となります(Drake et al., 2015):
- 身体診察における重要なランドマークとして機能し、胸部の解剖学的構造を同定する際の基準点となります。
- 気管内挿管や中心静脈カテーテル挿入などの医療処置の際に、解剖学的指標として利用されます(Agur and Dalley, 2017)。
- 胸骨切開術(sternotomy)の際の切開開始点となることが多く、心臓手術において重要な目印です。
- 頚部・胸部CTやMRIなどの画像診断における位置決めの基準点として用いられます(Mirjalili et al., 2012)。
- 甲状腺の触診や頚部リンパ節の評価の際に、解剖学的な参照点として使用されます。
触診法と同定
臨床現場での触診方法(Palastanga and Soames, 2012):
- 患者の首を軽度前屈させると、頚部の前面、正中線上に容易に触知できます。
- 第2肋骨の胸骨付着部の上方に位置し、左右の胸鎖関節の間に触れることができます。
- 表在性の構造であるため、皮膚を通して容易に触知可能です(Bickley, 2016)。