前斜角筋結節 Tuberculum musculi scaleni anterioris
前斜角筋結節(リスフラン結節、Lisfranc's tubercle)は第一肋骨上面に位置する骨性隆起で、前斜角筋の停止部位として機能する重要な解剖学的ランドマークです。この結節は第一肋骨の内縁に近い上面中央部に明瞭に認められ、周囲の神経血管構造との位置関係において臨床的に極めて重要な意義を持ちます(Gray, 2020; Standring, 2015)。

J0140 (右側の第一および第二肋骨:上外側からの図)
J0141 (右側の第一および第二肋骨:上外側からの図)

J0425 (右側の斜角筋:右側からの図)
解剖学的構造
位置と形態
前斜角筋結節は第一肋骨の上面で、肋骨頭から約3〜4cm外側、内縁から約5〜8mm外側に位置します(Moore et al., 2018)。結節の大きさは個体差がありますが、通常は長さ5〜10mm、幅3〜5mm、高さ2〜4mm程度の楕円形の隆起として観察されます(Bakkum, 2020)。この結節は前斜角筋の腱性停止部位であり、筋線維が骨膜を介してこの部位に強固に付着しています。
周囲の解剖学的関係
前斜角筋結節の解剖学的重要性は、その周囲を通過する主要な神経血管構造との位置関係に由来します:
- 前方:鎖骨下静脈が結節の前方約1〜2cmを通過し、第一肋骨の上面に浅い溝(鎖骨下静脈溝)を形成します(Netter, 2019)
- 後方:鎖骨下動脈と腕神経叢の下幹が結節の直後方を通過し、第一肋骨の上面に深い溝(鎖骨下動脈溝)を形成します。この溝は前斜角筋結節によって前方境界が区画されています(Chung et al., 2014)
- 外側:第一肋骨の外側部で、中斜角筋が停止します。前斜角筋と中斜角筋の間には斜角筋三角(scalene triangle)が形成され、この三角形の空間を鎖骨下動脈と腕神経叢が通過します(Sanders et al., 2007)
- 内側:第一肋軟骨との結合部に向かって第一肋骨が内側に延びます
- 上方:前斜角筋が付着し、鎖骨が第一肋骨の上方を覆います
- 下方:第一肋骨の下面には肋間筋と肋間神経・血管が走行します
筋付着関係
前斜角筋は頚椎横突起(C3〜C6)から起始し、前外側方向に下行して前斜角筋結節に停止します。筋線維は結節部で腱性構造に移行し、骨膜と強固に結合します(Moore et al., 2018)。前斜角筋の収縮により第一肋骨が挙上され、吸気時の補助的な呼吸筋として機能します。また、頚部の側屈および回旋にも関与します。
詳細な臨床的意義
胸郭出口症候群(Thoracic Outlet Syndrome, TOS)
前斜角筋結節は胸郭出口症候群の病態生理において中心的な役割を果たします。胸郭出口症候群は、鎖骨下動脈、鎖骨下静脈、または腕神経叢が胸郭出口部で圧迫されることにより生じる症候群で、以下の3つのタイプに分類されます:
- 神経性TOS(neurogenic TOS, nTOS):全症例の95%を占め、腕神経叢(特に下幹)が斜角筋三角で圧迫されることにより生じます。前斜角筋結節の過度な発達や前斜角筋の肥厚・短縮が圧迫の原因となります(Sanders et al., 2007)