肋骨頭稜 Crista capitis costae

J0138 (右側の第7肋骨:内側からの図)

J0139 (右側の第8肋骨、背面側からの図)
定義と位置
肋骨頭稜(Crista capitis costae)は、肋骨頭部の関節面を分割する水平方向の骨性隆起です(Gray, 2020)。肋骨頭の中央部を横走し、関節面を上下二つの小関節面に区分します。この構造は第2〜10肋骨に認められ、第1・第11・第12肋骨には存在しません(Moore et al., 2018)。
解剖学的特徴
- 第2〜10肋骨の肋骨頭には明瞭な肋骨頭稜が存在し、関節面を上関節面(facies articularis superior)と下関節面(facies articularis inferior)に分割します(Standring, 2020)。
- 上関節面は同番号より一つ上位の椎体(例:第5肋骨の上関節面は第4胸椎)の下肋骨窩(fovea costalis inferior)と関節します(Moore et al., 2018)。
- 下関節面は同番号の椎体(例:第5肋骨の下関節面は第5胸椎)の上肋骨窩(fovea costalis superior)と関節します(Moore et al., 2018)。
- 肋骨頭稜自体は肋骨頭関節の関節内靭帯(ligamentum capitis costae intraarticulare)が付着する部位となり、この靭帯は椎間円板に付着します(Standring, 2020)。
- 第1肋骨は第1胸椎体の肋骨窩のみと関節するため、肋骨頭稜を持ちません(Gray, 2020)。
- 第11・第12肋骨(浮遊肋)も単一の椎体とのみ関節するため、肋骨頭稜を欠きます(Gray, 2020)。
関節構造における役割
肋骨頭稜は肋椎関節(articulatio costovertebralis)の安定性に重要な役割を果たします(Standring, 2020)。関節内靭帯の付着により、関節腔を上下二つの区画に分割し、それぞれが独立した滑膜腔を形成します。この二重関節機構により、呼吸運動時の肋骨の複雑な三次元的運動(ポンプハンドル運動とバケツハンドル運動)が可能となります(Moore et al., 2018)。
臨床的意義
- 外傷: 肋骨骨折の際、肋骨頭部での骨折は比較的稀ですが、高エネルギー外傷や脊椎損傷を伴う場合に発生することがあります。肋骨頭稜部の骨折は肋椎関節の不安定性を引き起こす可能性があります(Athanassiou et al., 2019)。
- 関節炎: 肋椎関節の変形性関節症や関節リウマチでは、肋骨頭稜周囲の骨棘形成や関節面の不整が生じ、深呼吸時の疼痛や可動域制限の原因となります(Endo et al., 2017)。
- 感染: 化膿性脊椎炎や結核性脊椎炎が肋椎関節に波及すると、肋骨頭稜周囲の骨破壊が生じることがあります(Kim et al., 2015)。
- 画像診断: CT検査やMRI検査において、肋骨頭稜は肋椎関節の評価における重要な解剖学的指標となります。関節内靭帯の損傷や関節面の異常を評価する際の基準点として使用されます(Lee et al., 2016)。
- 呼吸機能: 肋椎関節の可動性低下は胸郭の拡張を制限し、拘束性換気障害の一因となります。肋骨頭稜周囲の関節機能は呼吸リハビリテーションにおいて考慮すべき要素です(De Troyer et al., 2005)。
- 徒手療法: カイロプラクティックやオステオパシーでは、肋椎関節の機能不全(rib dysfunction)に対する治療が行われ、肋骨頭稜周囲の関節可動性の改善が目標とされます(Fryer, 2016)。