椎弓根 Pediculus arcus vertebrae

椎弓根(Pediculus arcus vertebrae)は椎骨の基本構造を構成する重要な骨性要素であり、椎体と椎弓を連結する役割を担っています(Gray et al., 2020; Standring, 2021)。この構造は脊柱の安定性維持、荷重伝達、神経保護において中心的な機能を果たしており、臨床的にも極めて重要な解剖学的ランドマークとなっています。

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J0116 (椎骨:頭蓋骨側からの図)

J0117 (椎骨:右方からの図)

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J0118 (第4頚椎:頭側からの図)

J0119 (第4頚椎:右側からの図)

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J0126 (第6胸椎:頭側からの図)

J0127 (第6胸椎:右側からの図)

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J0293 (腰椎体と靭帯:後方からの図)

解剖学的特徴

基本構造と形態

椎弓根は椎体後外側部から後方に突出する円柱状または円錐状の骨性構造であり、左右一対で椎弓板(lamina)と連結しています(Standring, 2021)。その横断面は楕円形を呈し、長軸は脊椎の領域によって異なる方向性を示します。椎弓根の基部は椎体後面の上半部に付着し、その付着部は椎体高の約上1/3から1/2の位置に相当します(Panjabi and White, 2001)。

椎弓根の内側面と外側面は比較的平滑ですが、上縁と下縁には特徴的な陥凹が存在します。上椎切痕(incisura vertebralis superior)は下椎切痕(incisura vertebralis inferior)よりも浅く、この上下の切痕が隣接椎骨と組み合わさることで椎間孔(foramen intervertebrale)を形成します(Moore et al., 2019)。椎間孔は脊髄神経根、静脈、動脈が通過する重要な解剖学的経路であり、その形成における椎弓根の役割は臨床的に重要です。

領域別の解剖学的特性

頚椎(C3-C7)

頚椎の椎弓根は相対的に短く、斜め外側後方に向かって走行します(Bogduk, 2018)。その横断面積は他の脊椎領域と比較して小さく、特にC3-C5レベルでは最も細くなります。頚椎椎弓根の平均幅は約4-7mm、高さは約6-8mmとされ、個体差が大きいことが知られています(Karaikovic et al., 1997)。頚椎椎弓根の内側には椎骨動脈が走行する横突孔(foramen transversarium)が存在し、この解剖学的関係は手術時の重要な考慮事項となります。

胸椎(T1-T12)

胸椎の椎弓根は後方に向かって走行し、その走行方向は矢状面にほぼ平行です(Bogduk, 2018)。上位胸椎(T1-T4)では椎弓根の幅が比較的狭く、中位胸椎(T5-T8)で最も狭小化し、下位胸椎(T9-T12)では徐々に幅が増加します。胸椎椎弓根の平均幅は約4-9mm、高さは約10-14mmで、椎弓根の傾斜角度(medial angulation)は約5-10度です(Panjabi et al., 1991)。胸椎では肋骨との関節形成のため、横突起が椎弓根の外側後方から突出する特徴があります。

腰椎(L1-L5)

腰椎の椎弓根は最も太く頑丈な構造を持ち、矢状面に対して内側に向かって走行します(Bogduk, 2018)。その内側傾斜角度(medial angulation)は約10-20度で、下位腰椎ほど大きくなる傾向があります。腰椎椎弓根の平均幅は約8-18mm、高さは約14-18mmで、L5では最大の寸法を示します(Panjabi and White, 2001)。腰椎椎弓根は荷重伝達において重要な役割を果たし、その断面積と骨密度は脊椎固定術の成否に直接関連します。

微細構造と組織学的特徴

椎弓根は皮質骨と海綿骨の両方から構成されており、外層の皮質骨は比較的薄く(約1-2mm)、内部は海綿骨で満たされています(Ritzel et al., 1997)。海綿骨内の骨梁(trabeculae)は主に縦方向に配列し、軸方向の荷重に対する抵抗性を高めています。椎弓根の骨密度は椎体よりも高く、特に皮質骨の寄与が大きいことが知られています(Fyhrie and Schaffler, 1994)。

椎弓根周囲には豊富な血管網が存在し、特に椎弓根外側には椎体静脈叢(venous plexus)が密に分布しています(Groen et al., 2004)。この静脈叢は椎体内の静脈系と交通し、基底静脈叢(basivertebral vein)を介して椎体中心部の静脈と連結しています。また、椎弓根周囲には脊髄神経後枝の内側枝(medial branch)が走行し、椎間関節への知覚支配を行っています(Bogduk, 1983)。

生体力学的機能

荷重伝達機構

椎弓根は脊柱における荷重伝達の重要な経路を構成しています。生体力学的研究により、脊椎にかかる軸圧荷重の約18%が椎弓根を経由して後方要素(椎弓、椎間関節)に伝達されることが明らかにされています(Pal and Routal, 1987)。残りの約82%は椎体と椎間板を介して伝達されます。この荷重分散機構は脊柱の柔軟性と安定性のバランスを維持する上で重要です。