上顎体 Corpus maxillae
上顎骨は、顔面頭蓋の中央に位置する不規則な形をした含気骨であり、顔面の中心的な骨格要素です。胎生期には左右の骨が独立して発生し、出生後に正中線で癒合します(Standring, 2020)。上顎体(corpus maxillae)は上顎骨の主要部分であり、ピラミッド型の形態を呈し、4つの面(前面、眼窩面、鼻面、側頭下面)と内部に上顎洞を有します。

J0049 (右鼻骨:外側からの図)
J0050 (右鼻骨:内側からの図)

J0053 (右上顎骨:外側からの図)

J0054 (上顎骨:内面からの図)

J0088 (右側の側頭窩:外側からの図)

J0092 (右眼窩の側壁:左側からの図)

J0093 (右の眼窩の下部の壁、上方からの図)

J1000 (右眼窩の内容物:前方からの図)

J1012 (右の眼窩隔膜:前方からの図)
形態学的特徴
上顎骨は左右の骨が正中で結合し、眼窩の床、鼻腔の外側壁、骨口蓋などの骨格形成に重要な役割を担います。この結合部は上顎縫合(maxillary suture)と呼ばれます(Moore et al., 2018)。上顎体は以下の4種類の突起で構成されています:
- 前頭突起(processus frontalis):上顎体の上内側角から上方に伸び、前頭骨の鼻部および鼻骨と縫合し、涙骨とも接しています。内側面には篩骨の鉤状突起と関節する篩骨稜(crista ethmoidalis)があり、中鼻甲介の付着部となります。また、前涙嚢稜(crista lacrimalis anterior)が存在し、涙嚢窩の前縁を形成します(Drake et al., 2019)。この突起は鼻涙管の外側壁の一部を構成し、涙道系の機能に関与します。
- 頬骨突起(processus zygomaticus):上顎体の外側上部から外側方向に伸び、頬骨と縫合します。この接合部は頬上顎縫合(sutura zygomaticomaxillaris)を形成し、顔面外傷時の骨折ラインとなることがあります(Netter, 2019)。頬骨突起は顔面の幅と形態を決定する重要な要素であり、Le Fort骨折の分類においても重要な解剖学的指標となります。突起の基部には眼窩下孔が位置します。
- 口蓋突起(processus palatinus):上顎体の内側下部から水平に内方へ伸び、対側と正中口蓋縫合(sutura palatina mediana)で結合して硬口蓋の前方約3/4を形成します。上面は鼻腔の床となり、下面は口腔の天蓋となります。後方では口蓋骨の水平板と横口蓋縫合(sutura palatina transversa)で連続します(Standring, 2020)。口蓋突起の前方正中部には切歯孔(foramen incisivum)があり、鼻口蓋神経と血管が通過します。口蓋突起の下面には大口蓋溝(sulcus palatinus major)が存在し、大口蓋神経と動脈が走行します。口蓋裂などの先天異常は、胎生期における左右の口蓋突起の癒合不全により生じます。
- 歯槽突起(processus alveolaris):口蓋突起および上顎体の下縁から下方に伸び、上顎歯を支えるための歯槽窩(alveoli dentales)を形成します。通常、切歯2本、犬歯1本、小臼歯2本、大臼歯3本の計8本の歯槽窩が存在します。歯槽突起の外側面には歯根の隆起が認められ、特に犬歯の歯根による犬歯隆起(eminentia canina)が顕著です(Hupp et al., 2018)。歯の喪失により歯槽突起は経時的に吸収し、特に無歯顎では著しい骨吸収が進行します。これは歯科インプラント治療時に骨量の評価と骨造成術の必要性を検討する上で重要な臨床的課題となります。
上顎体の各面の解剖学的構造
前面(facies anterior):前面は顔面に向かう面で、以下の構造を有します:
- 眼窩下孔(foramen infraorbitale):眼窩下縁の約1cm下方に位置し、眼窩下神経(三叉神経第2枝の終枝)と眼窩下動静脈が通過します。この孔は眼窩下管の前方開口部です(Ellis et al., 2022)。
- 犬歯窩(fossa canina):眼窩下孔の外下方に位置する浅い陥凹で、上唇挙筋の起始部となります。
- 前鼻棘(spina nasalis anterior):鼻腔の前方下縁で、左右の上顎骨が正中で会合する部位に形成される棘状突起です。
眼窩面(facies orbitalis):上方を向く三角形の平滑な面で、眼窩の大部分を構成します:
- 眼窩下溝(sulcus infraorbitalis):眼窩面の後方に始まり、前方へ走行して眼窩下管となり、最終的に眼窩下孔に至ります。
- 眼窩下縁(margo infraorbitalis):眼窩の下縁を形成し、頬骨と連続します。眼窩吹き抜け骨折(orbital floor fracture)の好発部位です。
鼻面(facies nasalis):内側を向く面で、鼻腔の外側壁の一部を形成します:
- 上顎洞裂孔(hiatus maxillaris):大きな不規則な開口部で、上顎洞への主要な開口部です。生体では篩骨の鉤状突起や下鼻甲介により大部分が閉鎖されます。
- 上顎洞の自然口は中鼻道に開口し、副鼻腔炎の際の排膿路となります(Schünke et al., 2020)。